4. 立骨重心制御と骨傾斜容認,重心乖離容認(つづき)
骨傾斜容認状態の傾向
ここで,立骨重心制御状態の有利性を述べるために,比較対象となる不良姿勢の実態をみていくことにする。ケンダルが不良姿勢とした図1−3のB,C,Dは,私がみてきた骨傾斜容認の状態と近似するものであり,それらは骨傾斜容認状態の特徴をよく表している。私は,一定の割合の人が,骨傾斜容認であり,骨傾斜容認状態に陥っていると考えている。重心乖離容認の実態については別の図を用いて後述することにし,ここでは骨傾斜容認状態の実態について述べることにする。
B,C,Dには体を支える骨に荷重の偏りがある「骨傾斜の状態」があり,関節で曲げの動きが進んでいる箇所があることが,図から推定できる。それぞれの骨が傾斜する方向や程度は異なるが,次の三つの傾向があることがわかる。
一つ目の傾向は,脊柱の腰椎と胸椎の骨傾斜である。脊柱が骨傾斜の状態にあるということは,脊柱に理想的な状態以上の屈曲か伸展があるということであり,その椎間板では曲げの変形が起こっているということである。B,C,Dの状態を,立骨重心制御状態のAの状態と比較する。Aでは,各椎骨の関係は,荷重に偏りがない最大面積荷重の関係となっている。腰椎は前弯し,胸椎は後弯するなど,適度な弯曲がある。これに対しBでは,腰椎が伸展し,胸椎が屈曲する形で,過度な弯曲が形成されている。Cでは,腰椎が屈曲し,腰椎前弯が平坦化している。Dでは,腰椎が少し伸展し,胸椎の屈曲が大きくなっている。B,C,Dでは,Aにおける脊柱の適度な弯曲がある状態とは異なり,このような腰椎や胸椎の過度の屈曲と伸展があり,その椎間板に曲げの変形が生じているといえる。
二つ目の傾向は,脊柱の頸椎の伸展である。Aのように頸椎には本来的に少しの前弯があり,この状態が頸椎における理想的な最大面積荷重の関係の状態となる。これに対し,B,C,Dでは,頸椎が全体的に前傾しながら伸展する状態となっており,その前弯の程度がより大きくなっている。この頸椎伸展は,腰椎と胸椎の過度の関係性によって,頸椎下部の立ち上がりの角度が前傾している中で,実行者の顔を正面に向ける必要性のために生じていると考えられる。頸椎が前傾しながら伸展するため,頸椎が支えている頭蓋骨は前方に突出する形となる。この傾向を「頭部前方突出と頸椎伸展」とここでは呼ぶ。
三つ目の傾向は,骨盤の骨傾斜である。骨盤下部が適切位置よりも前方に位置し,骨盤が後傾するという骨傾斜の傾向がある。Aでは,股関節の位置が固定基準線上にあるが,B,C,Dでは股関節の位置が固定基準線よりも前方にある。これは,骨盤の下部が前方に位置し,大腿骨が前方に傾斜していることを示している。また,Aでは,図の骨盤傾斜の参照線(上前腸骨棘と恥骨結合を通過する)が鉛直の固定基準線と並行し,垂直に近い状態である。一方で,Bでは,その参照線が前傾し,CとDでは後傾している。これは,B,C,Dでは骨盤が前後に傾斜していることを示している。私のクライアント観察経験では,CとDのように骨盤が後傾する傾向がより多くみられる。骨でいえば,骨盤を形成する寛骨が後傾していることになる。このように,骨盤下部が前方に位置して,骨盤が後傾するという二つの傾向は,セットで起こりやすい。骨盤が前方に滑って後ろに倒れているようなものであることから,この傾向を「骨盤スライド後傾」と呼ぶことにする。
このように,骨傾斜容認状態では,腰椎と胸椎の過度な屈曲または伸展,頭部前方突出と頸椎伸展,骨盤スライド後傾の三つの骨傾斜の傾向がみられる。これらは単独で起こるというよりも,複数が同時に起こる場合が多い。
この傾向は,別の体位や姿勢でもみられるものである。同じ立位でも直立の立位ではなく,股関節と膝関節を屈曲させる中腰の姿勢でも,腰椎と胸椎の過度の屈曲または伸展,頭部前方突出と頸椎伸展,骨盤後傾の傾向がみられる。また,これらは座位でもみられる傾向である(図1−4)。
(第1章その13につづく)
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