有利な体の使い方:第1章その13

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声
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4. 立骨重心制御と骨傾斜容認,重心乖離容認(つづき)

目次

骨盤と脊柱の相互補完関係

骨盤の骨傾斜の傾向は,脊柱の骨傾斜と連携する関係を持っていると考えている。つまり,脊柱の骨傾斜が単独で起こるというよりは,骨盤の骨傾斜と共にみられやすいということである。それは,私達が体を起こしている際に体の重心を適切位置から大きく乖離させられないという制約があるからと考えられる。

図1−3 姿勢の4つのタイプ

図1−3 姿勢の4つのタイプ

ある実行者の腰椎が何らかの理由で屈曲した際に,骨盤がAのような立骨状態に留まっていれば,実行者の胸部以上の体は下半身に対して前方に位置づけられることになる。この場合は,実行者の体全体の重心は,適切位置から前方に乖離することになる。このため,体全体を前に傾かせる力のモーメントが大きくなり,それを支えるために実行者には筋緊張が強く生じることになる。しかし,この際に骨盤が前方にスライドして後傾すれば,腰椎下部の立ち上がり角度が変わることから,実行者の上体が足底上に留められて,重心は大きく動かずに適切位置付近に留まることになる。このため,体を傾かせる力のモーメントの増加は抑制され,実行者の体位維持のための筋緊張は抑制される。実行者としては筋緊張を加えずにできる方が「楽に感じる」ため,骨盤スライド後傾を起こす方を選択するだろう。こうしたことから,骨盤スライド後傾は腰椎屈曲の補完処置となるといえ,私達は腰椎屈曲時にこのように骨盤スライド後傾を起こしやすいといえる。

そして,この逆に私達が骨盤スライド後傾を起こした際には,それを補完するために,腰椎屈曲または胸椎屈曲を起こしやすいともいえる。これも重心を適切位置に留める処置となるからである。

実行者がどちらかの骨傾斜を起こした際には,いずれにせよ,実行者は骨盤スライド後傾と脊柱屈曲を同時に起こしている状態でいやすい。こうした場合においては,脊柱屈曲のために起こした補完処置が骨盤スライド後傾なのか,骨盤スライド後傾のために起こした補完処置が脊柱屈曲なのかという因果関係が特定できない時もあるだろう。ここでいえることは,私達はこれらを同時に起こしやすいということであり,この二つの骨傾斜は相互補完関係にあると考えられることである。

体を支える骨のどこかに骨傾斜の状態が一つあるということは,私達の重量バランスを維持するという制約から,その骨傾斜が他の関節の骨傾斜で補完されることになるともいえる。つまり,体を支える骨の骨傾斜は,1箇所だけでは完結せずに,他にも影響を及ぼすことになるということである。

なお,骨盤と脊柱に相互補完関係があると考えれば,実行者に骨盤スライド後傾が起きていれば,実行者の脊柱は立骨状態になりにくいということがいえる。私は,この相互補完関係があると考えており,レッスンではこの骨盤の骨傾斜に注目している。それは,多くの人が姿勢を良くしようとする際に,脊柱の良好なアライメントを目指すだろうが,それを実現するためには骨盤の立骨状態を実現しなければならないことを,このことは示しているからである。

仙骨と腰椎は,各椎骨の椎体連結と同様の形で連結し,仙骨と各椎骨で「脊柱」と呼べる機能体をなしている。そして,寛骨は仙骨と仙腸関節で関節するが,仙腸関節はほとんど動かない関節であり,寛骨と仙骨の関係は結びつきが強いといえる。このため,椎骨と仙骨,寛骨の三者は,結びつきが強く,相互に影響を及ぼし合う関係であり,これで一つの機能体をなしているとみなすべきといえる。

仙骨と腰椎の関係と各椎骨間の関係が,全て最大面積荷重の関係となれば,図1−3のAのように寛骨は脊柱が伸びる方向を向くことになる。このことから,実行者が理想的な脊柱のアライメントを実現するためには,寛骨が脊柱の伸びる方向を向くように「骨盤を立てる」ことが必要となると考えている。

後の章で,実行者が理想的な状態を実現する方法を述べるが,その際にこの骨盤制御の仕方について詳しく説明する。

第1章その14につづく)

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