有利な体の使い方:第1章その14

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4. 立骨重心制御と骨傾斜容認,重心乖離容認(つづき)

目次

重心乖離容認状態の傾向

立位における理想的な状態と考える立骨重心制御状態では,体の重心の足部投射位置は足関節の前方で,脛の表面と足の甲の表面が交わる辺りになる[14]。私は,一定の割合の人が重心を適切位置に留めておらず,重心を適切位置から乖離させていると考えている。こうした人の態度を重心乖離容認と呼び,その状態を重心乖離容認状態と呼ぶ。

実行者が重心乖離容認であれば,体の重心を適切位置から後方へ乖離させやすいと考えている。実行者が重心位置を後方へ乖離させている場合は,実行者は体を後方に倒す力のモーメントを支えるために,体の前側の筋群である大腿四頭筋,腹筋群,胸鎖乳突筋などの筋緊張を強くすることになる。私はレッスンで,一定の割合の人がこうした状態であることを観察している。

体の重心の位置は,成人では,骨盤内で仙骨のやや前方にあり,高さは臍より少し下辺りにある[15]。重心の位置には体型による個人差がある。

左右にも重心は乖離するが,ここでは前後での乖離が生じやすいことを述べるために,矢状面でみていくことにする。そして,体の重心が支持基底面上のどこにあるのかを評価するにあたって,足部や床面への投射点をみていくことにする。

私のクライアント観察経験からわかる重心乖離容認状態を,図1−5のB’,D’に示した。B’とD’の状態図は,私が独自に作成したものである。B’とD’はそれぞれ,ケンダルの図1−3のB,Dを,その骨傾斜のパターンを踏襲しながら,後方に重心乖離するように加工したものである。比較のために重心が適切な位置にある立骨重心制御状態のAも示している。図をみると,Aでは,重心が足関節よりも少し前の適切位置に位置づけられているが,B’やD’では足関節上に重心が位置づけられていて,その位置は適切位置よりも後方にあることがわかる。

図1−5 重心乖離容認の状態例

図1−5 重心乖離容認の状態例

ケンダルの図1−3のB,C,Dでは,重心が後方に乖離しているようには見えない。しかし,私は,こうした状態よりも重心が後方に乖離している状態をより多く観察している。

図1−3 姿勢の4つのタイプ

(再掲)図1−3 姿勢の4つのタイプ

重心乖離容認の人は,立位の際に,常に重心乖離を起こしているわけではないかもしれない。しかし,特に「よい姿勢で立つ」「しっかり立つ」と考えて立位を形成すると,後方に重心を乖離させる傾向があるように感じている。重心乖離容認の人は,立位では,重心の乖離といっても支持基底面を超えるほどの大きな乖離を起こしているわけではない。重心の足部への投射位置でいえば,それが外果の辺りに投射される程度の乖離となるだろう。ある人が後方に重心を乖離させていることは,その人の起こしている体と足部位置を相対的にみることで推定できる。また,こうした人は体の前側の筋の筋緊張を強く生じさせており,それを把握することでも推定できる。

第1章その15につづく)

脚注

[14] 中村隆一他の『基礎運動学』(2003年)によれば,重心線が「外果の前方(足関節のやや前方,外果の5〜6cm前方)」を通過するアライメントが理想的であると示されている。個人差もあるが,外果の5〜6cm前方とは脛の表面と足の甲の表面が交わる辺りになる。

[15] 中村隆一他の『基礎運動学』(2003年)によれば,「重心の位置を足底から計測すると,成人男性では身長の約56%,女性では約55%の位置にある。重心の位置には,体型による個人差がある」としている。

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