第3章 動作時に陥りやすい体位維持の仕方(その3)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声
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3. 過剰共縮制動を採用してしまう理由

一定の割合の人が過剰共縮制動を採用してしまう理由,そして,その時の筋緊張が過剰なものとなる理由を以下に述べる。

動作時に骨傾斜容認でいる影響

一定の割合の人が過剰共縮制動に陥る一つ目の理由は,動作時に骨傾斜容認でいることである。これは,以下に述べるように,前章で考察してきたことからいえる。

実行者が骨傾斜容認でいる場合は,目的動作のための筋収縮や骨を通じた作用力,または実行者の制動のための筋収縮によって,実行者は体を支える骨を動かしてしまい,目的動作や制動のための筋収縮の目的仕事転化効率を悪化させやすい。このため,実行者は,動作に関係する筋群の筋収縮を余計に進めることになりやすい。

頭蓋骨と脊柱を制動するために用いられる筋が,腹筋群と背筋群,そして首の筋群である。実行者が動作時に骨傾斜容認でいれば,制動のこれらの筋群の筋緊張は強いものとなる。実行者が骨傾斜容認でいる場合は,骨盤スライド後傾や脊柱屈曲,そして頸椎伸展を起こしやすい。これらの骨傾斜の動きは,腹筋群や首の筋群が短縮して働く状態をもたらす動きとなる。このため,腹筋群と首の筋群は,目的仕事転化効率が悪化することになり,必要以上に筋収縮を進めることになる。そして,それぞれ筋緊張は過剰なものとなり,実行者はそれを顕著に感じることとなる。

実行者が立骨重心制御の態度を持ち,体を支える骨を動かさなければ,制動の筋群の筋緊張はそこまで強いものとはならずに済んだのである。このことから,実行者が骨傾斜容認でいる場合の制動の筋群の筋緊張は,過剰なものといえる。

この場合の実行者の制動の仕方は,腹筋群と首の筋群を過剰に筋緊張させる過剰共縮制動となる。こうしたことから,実行者が動作時に骨傾斜容認でいることが,実行者を過剰共縮制動に陥らせる要因となるといえる。

骨傾斜容認時における実行者の制動の仕方は,本来働くべき脊柱起立筋や頭長筋,腸腰筋,大腿二頭筋などを適切に働かせない,事後的な対処の仕方となっているといえる。この対処の仕方のために,実行者は腹筋群や首の筋群の筋収縮を進ませることになり,その筋緊張を過剰なものとしてしまう。過剰共縮制動による制動の仕方は,前側と背側の筋群の本来あるべき共同関係を崩れさせた対処の仕方ともいえよう。

過剰共縮制動には実行者の骨傾斜容認の態度が一因であることから,過剰共縮制動には骨の傾斜が伴いやすいといえる。実行者が骨傾斜容認でいれば,何か動作を行うたびに,動きや力の発揮の一瞬前に骨盤スライド後傾や,腰椎や胸椎の屈曲,そして頭部前方突出と頸椎伸展を起こしやすい。



必要以上に速い動作をしてしまいやすい

次に,過剰共縮制動に陥る二つ目の理由を述べる。それは,一定の割合の人は必要以上に速い動作をしてしまいやすいことである。

私達が何かの動作をする時は,体のある部位を動かすことになる。そして,静止状態から,その部位を加速させて動かすことになる。私達が速い動作をするということは,その加速度を大きくすることを示している。また,私達は動作を止める必要もあり,部位の動きの速度を減速させることになる。私達が速い動作をするということは,その減速度も大きくすることを示している。

このような加速や減速は力によって実現されるものである。このため,私達が速い動作をするにあたっては,力の源である筋収縮がより求められることになる。私達が速い動作をした場合は,体を支える骨への牽引力や関節を通じた作用力も大きくなり,体を支える骨はより動かされやすくなるといえる。また,その際に私達には,体を止めるより大きい制動力が必要となり,腹筋群や首の筋群の筋緊張をより強くすることになる。私達の動作が速いほど,その目的動作のための筋の筋緊張は強くなり,同時に制動のための腹筋群や首の筋群の筋緊張も強くなる。反復動作では,この加速と減速が繰り返されることになる。実行者が反復動作を速く行えば,制動のために腹筋群や首の筋群の筋緊張を強くすることになり,それを反復動作中に継続することになる。

このように,実行者の動作の速さが,腹筋群や首の筋群の筋緊張を促進させる要因となる。そして,その動作速度が速すぎるのであれば,実行者の制動の仕方は,腹筋群と首の筋群が過剰に筋緊張する過剰共縮制動となるのである。

一つ目の理由では,実行者が骨傾斜容認でいることで,その制動の仕方が過剰共縮制動に結果的になることを述べた。ここで示したように,実行者が骨傾斜容認でなくとも制動の仕方が過剰共縮制動となり得るのである。

私が指摘したい過剰さとは,過剰共縮制動が求められるような速度で行わなくともよかった動作を,実行者が速度を必要以上に上げて行ってしまうということである。実行者が動作の速度を上げなければ,筋緊張は抑制でき,体を支える骨の制動力を大きくせずに済んだのである。この可能性があったにもかかわらず,実行者が動作速度を必要以上に上げてしまうために,制動のための腹筋群や首の筋群の筋緊張をより強く加えざるを得なくなるのである。

一定の割合の人は,歯磨きの行為を,腹筋群と首の筋群の筋緊張を過剰なものとする過剰共縮制動で行いやすい。しかし,歯磨きの行為は,一定の速度を超えなければ,実行者が腹筋群や首の筋群の筋緊張を過剰に加えなくともできる行為である。一定の割合の人は,この歯磨きの行為を速度を上げて行ってしまうために,それに過剰共縮制動を採用してしまうことになる。

こうした人は,歯磨きの行為だけでなく多くの行為を,過剰共縮制動を要するほどの速度で行ってしまいやすい。習慣的な行為であるほど,動作速度を上げやすい。例えば,タイピング,文章を書く,歩く,掃除をする,言葉を話す,話す際の手振り,うなずく動作,等々の日常生活や仕事の行為,その仕草などであり,それらは多岐にわたる。また,呼ばれた際に素早く振り向くなど,ある刺激があった後の反応が速い人もいる。刺激に咄嗟に反応して動作する傾向の人も,初動が速くなることから,体に大きな牽引力を生じさせてしまい,結果的に過剰共縮制動をとらざるを得なくなる。こうした人は,過剰共縮制動を採用する程度の動作の速さが,自身の動作ペースの基準になっているかもしれない。

こうした傾向を持つ人は,それほど少なくないように思える。動作が速いことや,反応が速いことは,一定の価値を生む。主には,時間的な価値である。特に現代社会では,動作の速さや反応の速さは,時間効率を高めることから重視されやすいことでもある。また,価値とは関係なく,その人の習慣で速くしてしまうこともある。これには,実行者が親のしつけで急かされる経験が多かったり,または親を始め身近な人で速く動いたり話したりする人を無意識的に真似してしまっていたり,または性格的に「せっかち」であったり,といった要因が挙げられるだろう。

この過剰共縮制動による腹筋群や首の筋群の筋緊張は,実行者がその動作の速度を下げても行える可能性があったならば,過剰なものとなることに変わりはない。

実行者の動作速度が一定の速度を超えないものであれば,部位や体節の動きの筋収縮による牽引を受けても,体を支える骨はそれほど動かされず,過剰共縮制動のような腹筋群と首の筋群の筋緊張を加える必要はない。この場合,実行者は制動のための筋緊張をほとんど加えなくともよいように感じられるだろう。

第3章その4につづく)
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