体を支える骨を「つっぱり棒」として働かせる状態となる
立骨重心制御状態では,上下からの力で骨に偶力も生じずに,体を支える骨が回転しにくくなることを述べた。このことから,立骨重心制御状態では,体を支える骨が「つっぱり棒」や「つっかえ棒」のように利用されている状態となるといえる。つっぱり棒は,壁の間に位置づけられるなどで,その両端からの偶力の生じない内向きの圧力で,つっぱり棒自体が安定する状態で使われるものである(図1−10)。それは,カーテンレールやハンガー掛けなどとして利用される。つっかえ棒も同じ仕組みであり,それは引き戸が開かないようにするために用いられたりする。
図1−3のAをこの視点で見返してみれば,体を支える骨がつっぱり棒のように働いているとみることができる。体を支える骨は,上の骨から最大面積で荷重を受け,下の骨から最大面積で反力を受けており,体を支える骨にはその上下の骨からの力で偶力も生じていない。そして,体全体としてみれば,自身の重量による荷重が最大限に骨を通じて床まで伝わり,体は床から最大限の床反力を受けていて,その床反力が骨を通じて最上段の頭蓋骨まで返されていることがわかる。この状態は,ある体を支える骨からすれば,上の骨からは重量による荷重,下の骨または床からは反力という,上下端の双方向から偶力の生じにくい内向きの圧力がかけられている状態であり,その体を支える骨はつっぱり棒のように自らが止まる力を最大限に得ている状態といえる。また,一つ一つの体を支える骨を縦に連ねた「体を支える骨全体」としても,一つのつっぱり棒のようにしているといえるだろう。そして,この状態は,つっぱり棒がひもやロープといった張力性の支えなしで自らを止められるように,体を支える骨が安定するために筋や靭帯といった張力の動員を抑制できる状態となっている,とみることができる。
一方で,B,C,Dの骨傾斜容認状態では,骨傾斜によって荷重と反力で余計な偶力が生じており,得ていた床反力が減損して,その分の反力形成を筋や靭帯といった張力が補う形で動員されている,とみることができる。体を支える骨が「つっぱり棒」の利点を十分に活かしていないようにみえる。
立骨状態は,上下に連結する二つの骨の関係を定義したもので,それは最大面積荷重の関係である。立骨重心制御状態における体を支える骨の関係は,上下に連結する三つの骨のアライメントの観点,または「最上段の頭蓋骨」と「中間の全ての体を支える骨」,「床」の三者のアライメントの観点でいえば,それは中間の体を支える骨を偶力の生じない「つっぱり棒」にする関係の状態となるといえる。体が立骨重心制御状態となり,体を支える骨が「つっぱり棒」の状態となれば,体の体重が体を支える骨に最大限にかかるようになり,そのことから体は床反力を最大限に得られ,その床反力が最上段の頭蓋骨まで骨を通じて返されるようになる。その結果,体を支える骨が安定し,体全体も安定することになる。つまり,この関係の状態は,実行者自身の重量による荷重と床反力を自身の安定化に最大限に活かす状態となるといえる。
(第1章その18につづく)
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