有利な体の使い方:第1章その5

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声
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3. 体の重心を適切位置に位置づける制御

有利な体位維持の仕方のもう一つの条件として示した「体の重心を支持基底面上の適切位置に位置づける」ことの有利性について述べる。

この条件を満たすように制御することの利点は,実行者がこれによって支持部位を動きにくい状態とし,体を安定させやすくできるということである。この利点が得られるのは,実行者が体の重心を支持基底面上の適切位置に位置づける制御をすることで,支持部位で床面へ最大面積荷重をかけることになるからである。また,この制御により,体位維持において筋や靭帯といった張力負担を限定的なものにできるという利点もある。こうした有利性が導けることを,立位を例にして説明する。

立位における体の重心の適切位置は,側方視(矢状面)における足部への投射位置でいえば,足関節よりも少し前に投射される位置となる。これは運動学でも指摘されていることで,一般的なことである。運動学の基礎テキストである『基礎運動学』では,立位における理想的な体の重心位置は,足関節よりも少し前の辺り(5〜6cm前)に投射されるとしている[12]

立位における支持基底面は両足の足底とその間のエリアであることから,実行者が重心を足関節の少し前に位置づけるということは,重心が支持基底面上に留まることを意味している。

足関節は起こしている体の支点となっている。このため,足関節よりも前に体の重心を位置づけているということは,起こしている体に前に傾く力のモーメントを生じさせているということを意味している。そして,実行者は筋や靭帯といった張力を働かせて,この力のモーメントを支えることになる。仮に,実行者が体重心を足関節上に位置づけたとすれば,この力のモーメントは生じない。重心が支点である回転軸と垂直線上で一致するからである。

実行者が体重心を足関節よりも少し前に位置づけることは,体重心を支持基底面内の中央部付近に留めるものであり,大きな力のモーメントを生み出す処置とはならない。しかし,もし私達が力のモーメントを小さくすることを優先するのであれば,足関節上に重心を位置づけているだろう。このように私達は力のモーメントをあえて生じさせているのであり,私達は力のモーメントを最小にするよりも,他の何かを優先している結果,重心をこの位置に位置づけていると考えられる。

その私達が優先していることとは,足部の抑止であると考えている。私達が足関節よりも少し前に体重心を位置づけることで,足底全体で床面に荷重をかけられることになる。この時の荷重のかけ方は,立骨状態で説明した最大面積荷重となる。そして,この処置によって足部を回転させにくくする,つまり足部を抑止しやすくなるという利点が得られるのである。

第1章その6につづく)

脚注

[12]中村隆一・齋藤宏・長崎浩 『基礎運動学』(第6版) 医歯薬出版,2003年。

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