第2章 動作時の有利な体位維持の仕方 (2章その3)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声
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2. モデルでみる動作時の有利な体位維持の仕方(つづき)

重心制御の有利性

また,重心乖離容認は,骨傾斜容認と同様に,動作時においても不利な体位維持の仕方となる。それを,前述したモデルから考察できる。

図2−2 骨と筋のモデル3

(再掲)図2−2 骨と筋のモデル3

ここで,床面上で停止していると仮定していたCの骨について考察する。

モデルでは,Cが止まっていることを前提としたが,Cが動いてしまうようであれば,Bも安定せず,目的動作は実現されない,または実現されるにあたって筋効率が悪化する。実行者は,筋効率を悪化させずに目的動作を実現するにあたって,Cを抑止する必要がある。ここでは,どのような状態がCを動きにくくさせるのかをみていく。

Cが動きにくい状態となる一つの条件は,AとBの荷重によるCを下向きに押す力が,kの筋収縮やf,i,d,gの筋収縮によるCを牽引する力を上回ることである。Cを下向きに押す力が上回れば,垂直方向の牽引の力は打ち消されることになる。この場合は,Cは床面に荷重をかける状態となり,Cは床面から摩擦力も得ることになる。Cが摩擦力を得られれば,Bの骨を通じた作用力も含めてCに生じる水平方向の力も,打ち消されやすくなる。

そして,この条件を満たした上で,Cが接面部全体で荷重していれば,Cはより動きにくい状態となっているといえる。Cは,fやi,dやgといった筋の牽引を受ける。また,kの筋の牽引も受ける。これらは,Cの筋付着部を牽引することになり,Cをそれぞれの側から持ち上げようとする。つまり,CはBC関節を挟み左右のそれぞれの方向から牽引を受ける状態である。こうした左右それぞれの方向からの牽引に拮抗するためには,AとBの荷重が適切に左右に分散されて,Cの接面部全体で荷重していることが望ましい状態といえる。これは,Cが床面に最大面積荷重をかけている状態であり,この関係がCの動きにくい状態をもたらすといえる。

Cが床面にかける荷重が最大面積荷重ではなく,荷重に偏りがあれば,偏りのあった反対側の荷重が減り,Cのその側が筋の牽引に対して動きやすくなる。Cが接面部全体に荷重することで,接面部全体で摩擦力も得られるようになり,左右両側からもたらされる筋の牽引や骨の作用力が打ち消されやすくなる。Cは全体的に動きにくくなる。

Cが床面に対して最大面積荷重をかける状態は,モデルにおいてはCの接面部中央の直上に全体の重心が位置づけられている時に実現される。このようにAとBが制御されることで,A,B,Cのそれぞれに十分な質量があるとすれば,Cは動きにくい状態となる。Cが床面に対して最大面積荷重をかける状態となるためには,モデルの実行者による全体の重心を支持基底面上の適切位置に位置づける制御が必要となる。この制御は,立骨重心制御の重心制御である。Cが停止していることは,動作時の基盤が強固なものであることを意味している。このことから,実行者が動作時に重心を適切に位置づけ続けることは,効率的な動作のための基礎的な処置であるといえる。

逆にいえば,モデルの実行者が重心乖離容認でいて,重心を適切位置から乖離させていれば,Cが床面にかける荷重に偏りが生じ,Cが筋の牽引や骨の作用力に動かされやすくなるということである。実行者は,この状態では効率的な動作を実現できなくなりやすい。実行者は,この状態でモデル全体を起こしている状態に維持することは可能であるものの,その分その状態でモデル全体を止めるために筋緊張を動員することになりやすい。そして,この状態でも実行者は目的動作を達成できるかもしれないが,Bの骨も動きやすくなっており,実行者はより強く筋緊張させる形で動作することになるといえる。その動作は,効率的なものではなくなる。こうしたことから,重心乖離容認は,骨傾斜容認と同様に,動作時においても不利な体位維持の仕方となることがわかる。

ここで考慮すべきことは,動作時には,筋収縮の牽引や関節を通じた作用力によって静止時以上に体を支える骨が動かされやすいことである。そして,このことから,支持部位に対する重心位置が静止時以上に動きやすいことである。実行者は,こうした状況の中で基盤となる部位を止めるために,全体の重心を支持基底面上の適切位置にあり続けさせるように,静止時以上に積極的に制御する必要があるといえる。これは,動作時には特別な制動の態度が実行者に求められることを示している。

(第2章その4につづく)

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