第2章 動作時の有利な体位維持の仕方(その8)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




3. 実際の体の動作における体位維持の仕方による違い(つづき)

発声時の体位維持の仕方による違い(つづき)

次に,実行者が立骨重心制御の態度でいて,その状態で発声していく場合を考え,その特徴を骨傾斜容認状態や重心乖離容認状態の時と対比する。

実行者が重心を制御する態度を持つことから,体の重心は適切に位置づけられることになる。この場合は,体重の荷重が足底全体にかかり,足底は床反力と摩擦力を得ることから,足部は止まりやすくなっている。また,腹筋群や大腿四頭筋といった体の前側の筋群は,体位維持に過度には動員されていない。

また,実行者が体を支える骨を立骨状態とし続ける態度を持つことから,大腿四頭筋,腸腰筋,大腿二頭筋,脊柱起立筋,頭長筋などの働きが促され,足部抑止を基に脚部,骨盤,脊柱,頭蓋骨が立骨状態で動かないように支えられることになる。体を支える骨は立骨状態となり,最大の面積で上下の骨から力を受けて動きにくい状態となる。この状態は,自身の重量による荷重が骨を通じて最大限に床面に伝わり,同時に最大限の床反力を足部が得て,その反力が骨を通じて頭蓋骨まで返っている状態である。
こうした状態で,発声のために腹筋群が収縮して,腹筋群収縮が呼息圧力を形成していく。そして,腹筋群収縮は同時に肋骨や骨盤を牽引する。

制動の筋群は,骨が動きにくい状態で働くことにより,最初の筋収縮から最大の張力を発揮して抑止に貢献する。最小限の筋緊張で体を支える骨の抑止が行われることになる。股関節周りでは,大腿四頭筋,腸腰筋,大腿二頭筋,梨状筋などの筋緊張も最小限のものとなる。胴体部では,腹筋群の体位維持活動への動員が最小限のものに留められることになる。多裂筋や棘間筋といった比較的短い筋群は,伸張されず,その筋緊張は抑えられる。また,頭頸部では,胸鎖乳突筋や首の背側の筋群の筋緊張も最小限のものに留められる。制動の筋群が最小限の筋緊張で制動を実現することになるが,その理由は,本来働くべき筋の働きが促されて体を支える骨が立骨状態に留められ,自身の重量による荷重と骨の反力が体を支える骨の抑止に活かされるからといえる。



こうして脚の骨,骨盤,脊柱,頭蓋骨は,腹筋群の牽引を受けても筋や靭帯といった張力に過度に依存せずに,立骨状態で止まることができる。そして,胸郭前傾と骨盤スライド後傾が起こらないことから,発声のための腹筋群の収縮は,その最初の収縮から横隔膜の挙上の仕事に活かされ,腹筋群は最大に近い張力を目的の仕事に発揮することになる。

このため,実行者は,一定の呼息圧力を形成するために,腹筋群収縮を最小限のものに抑えられるようになる。また,発声をしようとして腹筋群収縮を起こすが,反応の後れなく呼息圧力を起こせるようになる。実行者はこの自身の発声の仕方を「軽く」感じるだろう。

立骨重心制御状態は,呼吸活動を制約しない有利な体位状態となることを前章で述べた。発声は呼吸を応用した活動である。呼吸活動が制約されない状態というのは,発声にとっても制約のない有利な状態となるといえる。その利点は,以下のことである。胸郭前傾も起こっていないことから,肋骨が制約なく動ける。腹筋群が体位維持活動に動員されないことから,腹筋群は呼吸活動に最大の自由度を持てる。脊柱の立骨状態によって腰椎前弯が適切に形成され,横隔膜下面も適切に下方を向いた状態に留められることから,腹筋群収縮による圧力が横隔膜に伝わりやすい状態が維持される。これらは,発声活動にとっても立骨重心制御状態における利点となる。

また,頸椎が立骨状態で維持されて胸郭や肩甲骨,頭蓋骨,舌骨も安定することから,声帯のある喉頭が適切な状態で支えられることになる。この状態は,声帯などの発声に関わる筋群が制約なく働くことができる環境となる。この状態を維持することで,実行者は発声時に喉頭の筋群の筋緊張を最小限のものにでき,良好な声の質を維持することができる。

こうしたことから,実際に出される声も「軽さ」や「はずみ」のある声として聞こえるものとなろう。また,実行者の体全体の筋緊張も少ないことから,声の響きも損なわれず,その声は「響く声」と評価されるものとなるだろう。

このように,立骨重心制御状態で行われる発声は,骨傾斜容認状態や重心乖離容認状態で行われるものよりも有利なものとなる。

 

 

ここでは上肢の動作と発声を例に挙げて,その際の体を支える骨に働く力を述べ,実行者が骨傾斜容認や重心乖離容認ではなく,立骨重心制御の体位維持で動作をしていくことの有利性を述べた。

ここで述べたことは,実際の筋緊張や関節の動きを計測したものではなく,私が考察したものである。また,ここで述べたことは,上肢の動作と発声における筋反応や骨の動きの全てを表現しているわけではない。しかし,実際に起こりやすい反応の一部を表現していると考えている。

この二つの事例を通じていえることは,モデルから導いた通りのことで,以下のことである。

動作の際には,その動作を起こすための筋収縮によって体を支える骨に動かされる力が働くことになる。それによって体を支える骨が動いてしまうことで,目的動作のための筋や制動のための筋の付着部が近づくようなことが起こる。この場合は,これらの筋群は収縮を進めた上で張力を発揮することになる。この短縮した状態は筋が発揮できる張力も低下しやすい。このことから,これらの筋群は,それぞれの仕事を達成するために余計に筋収縮を進めることとなり,その筋緊張は強いものとなる。これは,筋収縮の目的仕事転化効率が悪化していることを示している。

実行者が骨傾斜容認でいれば,体を支える骨に働く力によって,体を支える骨が動かされてしまうことになる。このため,目的動作や制動の筋の筋緊張は過剰なものとなる。実行者が重心乖離容認でいれば,本来的な筋群の働き方ではなくなり,体の前側の筋群をより強く筋緊張させることになったり,支持部位が動きやすくなることで,制動の筋群の筋緊張は過剰なものとなる。一方で,実行者が立骨重心制御でいれば,実行者の立骨状態を維持する態度によって,体を支える骨は立骨状態で止められることになる。このため,目的動作や制動の筋群の筋緊張は最小限のものに留められる。



他の様々な動作についてもあてはまる

上肢動作や発声の他にも,脚の動作,胴体や体全体を動かす動作,頭の動作などの様々な動作がある。他の様々な動作についても,ここで述べたことがあてはまると考えている。つまり,動作時には体を支える骨に動かされる力が働くが,これによって動かされないように実行者が立骨重心制御をすることで,実行者は有利な動作を実現できるということである。

一つ一つの動作によって体を支える骨に働く力は変わり,その全てを説明することはここではしない。しかし,多くの動作に共通して起こるある一つのパターンがある。それは腹筋群と首の筋群の筋収縮である。動作時には腹筋群や首の筋群の収縮が必要となるが,それが体を支える骨に影響を与えることになる。

腹筋群や首の筋群の収縮が様々な動作に共通して起こる理由は,それらが多くの動作に必要な「体の制動」のためだからである。どのような動作であっても,私達は体位維持を行いながら,その動作を行っていくことになる。そして,胴体と頭頸部を制動しながら動作していくことになる。腹筋群と首の筋群は,この胴体と頭頸部の制動の役割を担っている。このため,腹筋群と首の筋群の収縮は,様々な動作に共通して起こることになる。

しかし,腹筋群や首の筋群の収縮が体の制動のためとはいえ,無思慮に行われる場合には,実は制動自体を有利なものにしないのである。制動の働きである腹筋群や首の筋群の筋収縮も,それが筋収縮であるがゆえに体を支える骨を動かす力となり得る。そして,実行者が骨傾斜容認で適切に制御してなければ,これらの筋群の筋収縮によって体を支える骨を動かしてしまうことになる。そして,腹筋群や首の筋群をはじめとした制動の筋群の目的仕事転化効率を悪化させ,これらの筋群の筋緊張を過剰なものにすることになる。

こうしたことから,様々な動作において,実行者が骨傾斜容認でいれば,体を支える骨を動かしてしまうことになり,目的動作のための筋の筋緊張は過剰なものとなり,腹筋群と首の筋群をはじめとした制動の筋群の筋緊張も過剰なものとなるといえる。このため,様々な動作において,実行者は,骨傾斜容認でいるのではなく,立骨重心制御することで,有利な動作を実現できるといえる。

次章で,動作時に陥りやすいこの腹筋群と首の筋群の筋緊張が強く生じる不利な制動の仕方について更に詳しく説明する。

(第2章その9につづく)
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