2. 体を支える骨を立てる制御(つづき)
モデルと実際の体との違い
このモデルで説明した特徴は,私達の実際の体にもあてはまると考えている。ここでは,モデルと実際の体との違いについていくつか述べる。実際の体で立骨状態となった場合に,全体の姿勢としてどのような状態となるかについては,もう一つの条件であった重心制御の説明の後に述べることにする。
実際の体の立位では,モデルのAとCの間に位置づけられるBに相当する骨が,より多数存在する形となる。最上段のAに相当する骨は頭蓋骨で,Cに相当するのは足部の踵骨と中足骨となる。この間に,多くの体を支える骨が縦に連なることになる。これらの骨は,モデルのような類似した形や大きさではない。それぞれ形や大きさが異なる。靭帯がそれぞれの骨に付着して関節を外れさせない役割を担っている。モデルでは脊柱の椎骨をイメージしたことから,その連結部に椎間板があったが,椎間板は実際の体では脊柱以外にはない。ただし,関節液で満たされるスペースがあり,関節包でそれらが包まれている。膝関節には関節半月がある。
関節面の数についてもモデルのように一面で接するものもあれば,複数の面で接するものがある。実際の脊椎の各椎骨は複数の面で接する。一つは椎体の面であり,他は左右に二対ある上関節突起と下関節突起における関節であり,合計で三つの面で各椎骨は互いに接する。この場合も,それぞれの接面部で最大面積荷重の関係となることが各椎骨を安定させる状態となるといえるだろう。
筋については,モデルのeやf,h,iのような一つの関節をまたぐ筋もあれば,dやgのような複数の関節と骨をまたぐ筋もある。モデルのdやgの筋に相当するモーメントアームの長い筋は,実際の体では脊柱起立筋などの抗重力筋が主要なものとなる。抗重力筋の中でも特に主要姿勢筋と呼ばれる筋は,脊柱起立筋,頸部筋,大腿二頭筋,下腿三頭筋であるが,これらは複数の関節をまたぐモーメントアームの長い筋群である。こうした抗重力筋が用いられて上部の骨の向き調節が行われることが,骨の止まりやすさと局所的な筋や靭帯の負担軽減を導くものとなる。また,抗重力筋は元々常に働き続ける役割を担っていることから,疲れにくい筋繊維を多く含んでいる。立骨状態にする制御で,抗重力筋といった疲れにくい筋群が多用されて,局所的な短い筋などの相対的に疲れやすい筋の利用が抑制されることは,実行者の感じる筋負担軽減につながるといえる。
また,モデルでは体を支える骨の両側に筋が付着し,拮抗し合う形で働いていた。実際の脊柱の前後で拮抗し合う筋についていえば,脊柱の背側ではその代表が脊柱起立筋である。脊柱起立筋は複数の筋群からなり,最下部は骨盤に付着し,肋骨を介在しながら脊柱全体と頭蓋骨を下方に牽引している。一方で,脊柱の前側は,脊柱に付着して拮抗する筋はあるものの,前側全体にあるわけではない。脊柱前側の胸椎中央部には拮抗する筋は付着していない。この部分における背筋群に拮抗して働く筋は,腹筋群である。腹筋群が肋骨や骨盤を介在して拮抗する働きを担うことになる。また,頸部の前側では胸鎖乳突筋が背側の筋に拮抗する役割の一端を担う。しかし,胸鎖乳突筋は脊柱には付着せず,胸骨と頭蓋骨の側頭骨(乳様突起)に付着する。胸鎖乳突筋は,肋骨や頭蓋骨を介在して拮抗する働きを担うことになる。
モデルでは,最下部のCの骨が固定されていることを仮定した。実際の体でCの骨に相当するのは足部の踵骨や中足骨となる。有利な体位維持の仕方のもう一つの条件であった体の重心位置の適切制御によって,足部の骨は床面の上で安定抑止される。最下部の足の骨が止まれば,その上の骨が最下部の骨に荷重をかけたときに,骨を通じた反力を受けることになる。この最下部の骨の抑止を基に,頭蓋骨までの全ての体を支える骨が最大面積荷重の関係となるように,抗重力筋をはじめとした筋が用いられて制御されることになる。
こうしたことがモデルと実際の体との違いとして挙げられる。このような違いがあるものの,立骨状態に導く実行者の制御によって,体を支える骨が動きにくい状態となること,局所的な筋や靭帯の負担が軽減されること,という利点が得られることは,実際の体にもあてはまると考えている。
最大面積荷重の骨の状態は,水平な面に水平な面を持つ立方体の物を直立して立てて安定させている状態に類似することから,「骨が立つ状態」「立骨状態」と略した。モデルの(2)や(3)のように荷重に偏りがある骨の状態は,この立骨状態とは異なり,傾斜するような不安定な状態に類似することから,「骨が傾斜する状態」「骨傾斜の状態」と略すことにする。
(第1章その5につづく)
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