第3章 動作時に陥りやすい体位維持の仕方(その2)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




2. 陥りやすい体の制動の仕方

動作時における実行者の体位維持活動のもう一つの対処が,目的動作の筋収縮による牽引や関節を通じた作用力に体が動かされないようにする制動である。前節では,重心変位への対処として,一定の割合の人が陥りやすいパターンを述べた。それは,実行者がその対処に無思慮でいることから陥っているパターンである。制動のための対処についても同様に,一定の割合の人に無思慮に行われ,ある一つの対処パターンで行われやすい。その一つの対処パターンとは,実行者が動作時において,腹筋群と首の筋群の筋緊張を必要以上に強くして,体幹部と頭頸部を制動する対処の仕方である。

しかし,重心変位への無思慮の対処が不利なものであったように,この対処の仕方も無思慮であって不利なものとなる。

実行者が腹筋群と首の筋群の筋緊張を強くするという対処の目的は,椎骨の連続で形成されていて動きやすい構造である脊柱と,その上に乗る頭蓋骨を,動かないように抑止する,というものである。

腹筋群の筋緊張は,付着部である胸郭の前側と側方を下方に牽引する。脊柱起立筋などの背筋群は,本来の働きのある状態であれば姿勢維持のために胸郭の背側を下方に牽引している。このため,実行者が,背筋群が働く中で,腹筋群の筋緊張を加えることで,実行者は全方向から胸郭を骨盤の方である下方に牽引することになる。このようにして胸椎と腰椎を抑止しようとする。

また,これと同じように,首の前側の筋群の筋緊張は,頭蓋骨を胸郭の方に牽引する。首の前側の筋群とは,主たるものは胸鎖乳突筋であり,他に頸椎前側で胸郭と頭頸部に付着する多くの筋群(斜角筋,胸骨舌骨筋,顎舌骨筋,広頸筋等)のことを指す。首の背側の筋群である脊柱起立筋(頭最長筋,頸最長筋),頭板状筋,頸板状筋,頭半棘筋,頸半棘筋等は,本来の働きのある状態であれば頭頸部支持のために筋緊張している。その筋緊張は,頭頸部を下方に牽引している。このため,実行者が,首の背側の筋群が働く中で,首の前側の筋群の筋緊張を加えることで,頭蓋骨を全方向から下方に牽引することになる。このようにして,頭頸部を抑止しようとする。



体の制動の際には,前側と背側の対となる筋が共に収縮することで,体を支える骨が下方に牽引されて抑止されるようになることを前章で考察した。このように主動筋と拮抗筋が共に収縮することを,共縮という。実行者が動作時に,共縮のために腹筋群と首の筋群の筋緊張を加えることは,体の制動の対処として不適切ではない。問題は,その筋緊張の程度である。一定の割合の人が陥りやすい制動の仕方は,実行者が筋緊張の程度を過剰なものにして共縮させてしまう仕方となる。これが,この対処の不利な点である。

この対処の仕方は,実行者の腹筋群と首の筋群の筋緊張を必要以上に強め,共縮の程度を過剰なものにして,脊柱と頭蓋骨を制動するものである。このため,この制動の仕方のことを,ここでは「過剰共縮制動」と呼ぶ(図3−2)。過剰共縮制動は,実行者が上半身の筋緊張を強くして,上半身を固めるような形で行う制動となる。

図3ー2 過剰共縮制動

図3ー2 過剰共縮制動

過剰共縮制動の特徴は,腹筋群と首の筋群の筋緊張が顕著なことである。特に実行者が得る「腹筋群と首の筋群の筋緊張の感覚」が,顕著なものとなる。

過剰共縮制動の際に,実行者は脊柱起立筋などの背筋群の筋緊張も同様に強くしているものの,実行者はそれを顕著なものとは感じにくいだろう。背筋群は,本来的には上半身支持の主動的な役割を担っており,常に一定の筋緊張が生じて然るべき筋である。こうした中で,脊柱が牽引されて動かされやすい方向が屈曲の方向であり,この場合に背筋群は伸張されて受動張力が強まり,筋収縮による活動張力の増加程度はそれほど大きくならないからではないかと考えている。

これに対し,腹筋群の筋緊張は,実行者にとって顕著に感じられるものとなる。腹筋群は,本来的には上半身支持の主動的な役割を担っておらず,ある程度弛緩できて然るべき筋である。こうした中で,脊柱が動かされやすい方向が屈曲の方向であり,この場合に腹筋群は短縮して働くことになる。このため,腹筋群の筋収縮の目的仕事転化効率が悪化することになり,その筋緊張は必要以上に強いものとなる。実行者は,こうしたことから,過剰共縮制動の時の腹筋群の筋緊張を顕著なものと感じることになると考えている。

首の筋群については,前側と背側の双方の筋群の筋緊張を,実行者は顕著なものと感じるだろう。実行者は,胴体部の背筋群とは異なり,首の背側の筋群の筋緊張をより顕著に感じることになるだろう。胴体部との違いは,脊柱の動かされる方向が脊柱屈曲(頸椎屈曲)の方向ではなく,脊柱伸展(頸椎伸展)となるからである。頸椎伸展により,首の背側の筋群は伸張されるわけではなく,短縮されることになる。頸椎伸展することは,前側の胸鎖乳突筋だけでなく,背側の筋群にとっても効率が悪化する環境となる。このため,首については,実行者は前側と背側の双方の筋群の筋緊張を顕著なものと感じることになる。

どの程度の筋緊張の強さで過剰共縮制動となるかについて,具体的な基準はない。しかし,過剰共縮制動は腹筋群と首の筋群の筋緊張を一定に強める反応である。ある人が過剰共縮制動を行っているかどうかは,私はレッスンでその人に触れていればわかるものであるし,その人を見てもある程度わかる。行っている実行者も,気づく訓練が必要かもしれないが,特定できるものである。

一定の割合の人は,様々な日常動作の中で過剰共縮制動を行っていると考えている。例えば,歯磨きの行為で腹筋群と首の筋群の筋緊張を強めて行っている人がいる。この人は,過剰共縮制動を行っている。こうした人は少なくないだろう。

歯磨きの行為だけでなく,多くの行為において私達は過剰共縮制動を行う必要はなく,より緩和された筋緊張の程度でその行為を達成することができる,と考えている。過剰共縮制動とは,過剰な腹筋群と首の筋群の筋緊張のことと考えてよい。この過剰共縮制動を一定の割合の人は無思慮に採用していて,腹筋群と首の筋群の筋緊張を過剰なものとしていることを,ここで指摘したい。

第3章その3につづく)
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