第5章 有利な体の使い方の方針と実現するための留意点(その4)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




3. 幼児の体の使い方に共通するものがある

実行者は,前述した方針と意識の仕方で,有利な姿勢と動作を実現できると考えているが,この方針に則った体の使い方には,1歳から3歳くらいの幼児の体の使い方に共通するものがあるのではないかと考えている。幼児に限らず,人が何を考えて動いているかを把握することは認知科学で研究されることで非常に難しいことではあるが,以下に幼児の姿勢や動作の仕方についての私の考察を述べてみたい。括弧内に,共通すると考える私が述べた方針や留意点を示した。

幼児は,筋力や神経制御が成人ほどには発達していないため,バランスを崩し転倒しやすい。こうしたこともあって,彼らは成人以上に自身の重量バランスを積極的に取ろうとしているだろう(重心制御)。幼児は,自身の重量バランスをとるにあたって,頭を重く,そして頭の不安定さを感じていて,頭を適切に制御しないと転倒しやすいことを無自覚ながら認識しているだろう。このため成人以上に,幼児は頭の制御を積極的に行っている(頭部制御)。その頭の制御とは,頭を最高位置に位置づけて,頭と体全体のバランスを取り続けようとするものだろう。頭を最高位置に乗せている,または置いているような処置をしている。(頭部制御,立骨重心制御)。同時に,これらを支えている支持部位となる足底にも一定の注意を向けているだろう。幼児は,筋力で体を固定しようとはせず,自身の重量を足底に預けるようにして,全体重の荷重の圧力を足底全体で受け取っている感覚を得ているだろう(重心制御,支持部位に体重を預ける意図,支持部位における最大面積荷重)。また,彼らは尻を後ろに突き出すような形で,成人よりも殿部を後方に位置づけているが,これは骨盤を立たせているように見える(立骨重心制御)。少なくとも私が述べた骨盤スライド後傾を起こしていない。そして,重心の後方への乖離も起こしていない。座った際に幼児は,時には脊柱を屈曲させて背中を丸くすることもあるが,座面がフラットでクッション性のない椅子に座れば,脊柱や骨盤を立骨状態となるように上体を起こし,頭を最高位置で乗せているような姿勢で座ることもあるだろう(立骨重心制御)。その際に彼らは,誰からも背すじを伸ばすように言われなくとも,背すじを伸ばしている。そして,その姿勢からは過度な脊柱伸展や筋緊張は見られない。



歩く際では,幼児は,ただ頭と胴体を前に持っていこうとしているだろう。手で何かを取る際は,ただ手をその物の方に近づけようとしているだろう。幼児は,筋や関節のことを知らず,ただ動かしたいものを動かすという意図しか持っていないだろう(目的端先導の意図)。また,動作の際も,彼らは,動作の反動や重心変位の影響を受けて,体が倒れそうになる感覚を得ており,やはり足底の上で体のバランスを取りながら,その動作を行おうとしているだろう(立骨重心制御,重鎮基底制動)。筋力が未発達であることもあって,彼らは成人ほどには素早く動けずに,ややゆっくりと動いているだろう(自身の体のペース)。中腰になる際や椅子に座ったり,立ったりする際には,やはり倒れないように足底の上で全体のバランスを丁寧に取っていることも観察できる(重心制御)。多くの動作や姿勢において,腹筋群と首の筋群の過剰な筋緊張は抑えられており,呼吸の際に腹部前面が膨らんだりへこんだりしている(呼吸の際の腹部前面の動き)。

幼児の体の使い方が,成人にとって最も有利な体の使い方であるかどうかはわからない。しかし,幼児は,筋力が未発達であるがゆえに,最小限の筋緊張で姿勢形成や動作を行おうとしているとは考えられ,この観点においては彼らの体の使い方が効率的なものといえるだろう。少なくとも,こわばった体の使い方にはなりにくく,楽そうでいてきれいな姿勢であり,伸びやかに動き,楽に声を出しているように見える。

この幼児の時に得ていた動作感覚を成人になっても持ち続ける人もいるだろうが,一定の割合の人は即席保全の傾向に陥ってしまって,即席性重視で,余計な筋緊張を加えやすい姿勢や動作の感覚に差し代わってしまうのだろう。成人の生活は幼児とは異なり,社会的な要請が増えて責任も大きくなる。一定の姿勢で居続けなければならない,同じ動作を長時間行い続けることを強いられる,疲れていても活動をしなければならない,大きな責任が伴うことを実現していく,プレッシャーがある中で目的を達成させていくなどから,私達成人は体の使い方への配慮を欠落させてしまい,即席保全の傾向に陥りやすいのだろう。その結果,元々の感覚を失うことになるだろう。

元々の感覚を失った成人でも,私は前述した方針を意図し,留意点に注意していくことで失った感覚を取り戻すことができ,有利な体の使い方を現在の必要な活動で実現していくことができると考えている。幼児は意識的に意図しているわけではなく,無自覚にただそのように動いているだけであろう。成人は理性を用いて,意識的に意図して有利な姿勢や動作を実現することができるのである。

(第5章おわり。第6章につづく)
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