第6章 有利な体位維持の仕方の実現方法(その3)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




1. 立位時における立骨重心制御の指示の仕方(つづき)

呼吸と共に腹部前面が動く,頭がいつでも動けることを確認する

実行者が立骨重心制御を実現するにあたっては,それができているかどうかを自身で確認できるとよい。鏡があればそれを使って,自身の立ち姿を確認することもできる。しかし,多くの場合は鏡などで自身の姿を客観的に見ることはできない。鏡がなくとも自身の状態を確認する手段の一つが,腹筋群と首の筋群の筋緊張が過剰ではないことを確認することである。これはまた,腹筋群と首の筋群が体位維持活動に過度に関与しておらずに,それらが体位維持活動からある程度解放されていることを確認することともいえる。

実行者が立骨重心制御で骨盤や脊柱を立骨状態にしていれば,実行者は背筋群を適切に働かせて前に倒れる胴体を支えていることとなる。このため,実行者は胴体前側の腹筋群や首の前側の筋群の体位維持への動員を最小限のものに抑えることができる。

腹筋群の筋緊張が過剰ではない状態は,実行者が「呼吸をした時に腹部前面が膨らんだり,へこんだり動くかどうか」で確認することができる。腹筋群が体位維持活動から解放されていれば,呼吸時に横隔膜の動きに合わせて腹筋群が自由に動くことになる。その動きとは,呼吸で息を吐いたときに実行者の腹部前面がへこみ,息を吸ったときにそこが膨らむ動きのことである。腹部前面でもへそよりも上の前面部位が動くことになる。実行者は自身の呼吸によって腹部前面がこのように他動的に制約なく動くことが確認できれば,腹筋群が体位維持活動から解放されていて,腹筋群の筋緊張を過剰にしていないことを確認することができる。

この確認において実行者が留意すべきことは,「腹部前面を動かそう」という意図を持たないで行うことである。「腹をへこませて吐く」「腹を膨らませて吸う」こともできるが,これは強引ともいえるもので実行者は呼吸の筋群に過剰な筋緊張を生じさせてしまいやすい。それよりも,実行者がただ口や鼻から息を吸ったり吐いたりすることを意図し,その際に「勝手に腹部前面が膨らんだり,へこんだりする」ことを確認する方がよい。これは呼吸の仕方を説明する第8章でも触れることだが,安静時の呼吸や努力的な呼吸活動の際に役立つ意図となる。

首の筋群の筋緊張が過剰ではない状態は,実行者が「頭が胴体から独立していつでも動ける状態かどうか」で確認することができる。

この頭の動きとは,顔を左右に向けるように頭を回旋させることである。この際には,胴体は正面を向いて止まっており,頭が胴体から独立して動くことになる。これは頭の水平面上の回旋の動きとなるが,実行者は「首の前側に回旋軸がある」と考えて行うとよい。頭の回旋は頸椎上部の環軸関節から行われた方がよいが,実行者はこの意図によってその動きを導くことができる。このように胴体から独立させて頭を動かせれば,首の筋緊張は過度なものにはなっていないことが確認できる。



実行者が動作中に実際にこのように頭を動かして確認するのもよいが,目的行為のために視認する必要もあって頭を動かせない場合もあれば,そうしたくない場合も多いだろう。実行者が,頭を動かさずに「頭が胴体から独立して動けるような状態であるか」を確認できるとよい。

実行者が頭を動かさずに適度な首の筋群の筋緊張の状態を把握していくためには,その適度の筋緊張の状態の感覚に実行者が慣れ親しんでいる必要がある。実行者は,適度な筋緊張の状態の感覚に慣れ親しむために,日頃から積極的に頭を前述したように動かすとよい。実行者はこの動きをすることで,首の筋群の筋緊張を過剰にしていない状態を体験し,その感覚を得ることができる。そして,実行者がこの感覚に慣れ親しむことで,頭を動かさずとも首の筋群の適度な筋緊張の状態を確認できるようになる。実行者は,エクササイズとして日頃からこの頭の動きを行い,スムーズに動く感覚を得ていくとよい。私は,クライアントにこれをエクササイズとして行うように促している。

首の筋緊張の抑制が実行者の目標となるが,実行者は首に注意を向けるのではなく,頭に注意を向けるようにするとよい。そして,「頭がいつでも動ける」という動きをイメージする。このことは,目的端先導の意図の考えからいえることである。

有利意図の人は,腹筋群や首の筋群の緊張を確認する少し前に,「体重を支持部位に預ける」「体重を支持部位に落とす」という意図を持つとよい。実行者は立骨重心制御状態に修正するために体を導く必要があるが,そのために関係する筋群の筋収縮を進ませることになる。この際に,実行者は腹筋群の筋収縮も進ませているかもしれない。そして,立骨重心制御状態にした後も,実行者はその修正に要した筋緊張を継続させてしまう場合がある。実行者が立骨重心制御状態に修正した後に,再度「体重を支持部位に預ける」ことを意図することで,重鎮基底制動を意図することとなり,修正時に起こした腹筋群や首の筋群の筋緊張を緩和させることができるようになる。有利意図の人は,このように「体重を支持部位に落とし,呼吸をした時に腹部前面が動く,頭がいつでも動く」と考えるとよい。

このようにして,実行者が腹筋群と首の筋群の筋緊張の状態に注意を向けていくうちに,実行者の筋緊張程度を感知できる感度は高くなる。実行者は,その動きを起こさなくとも,筋緊張の状態を把握できるようになる。実行者の筋緊張を知覚する感度が高ければ,実行者は過剰共縮制動を採用した際に,自身でその過剰さに気づけるようになる。筋緊張の感度が高いということは,自身の中に過剰さを教えてくれるアラームを持っているようなものとなる。実行者は,有利な状態を維持しやすいだろう。

その他の留意点

  • 立位の基本的な状態としては,膝は伸展位でよい。ただし,その状態は膝の過伸展位ではなく,足の筋群の筋緊張を過度に強くしている状態ではない。
  • 実行者は体の前側に支えがあると意識し,背部や腰で意識的に支えようとはしない。
  • 実行者は修正後に自身が前傾している感覚を得るかもしれないが,実際に実行者の体が支持部位の足部に対して前傾するわけではない。
  • 実行者は修正後にぐらつく感じを得るかもしれないが,それは実行者が適切な平衡状態にいて,バランスをとり続けている動きを行っている結果である。姿勢の維持は微細な動きの連続であって,筋による固定ではないと考える。
  • 実行者が殿部を後ろにする際に,骨盤を前傾させる動きを過度にしてしまう場合がある。この場合の実行者の姿勢の状態は,股関節伸展位と腰椎伸展位になり,腰部背側を反らせ過ぎている状態となる。実行者は,ただ殿部を後方に位置づけるようにし,骨盤を前傾方向に回転させようとは思わない方がよい。
  • 体の前側の支えを実行者がイメージするにあたって,前頭部と胸骨上端部を重心投射点(足の甲と脛の交わる辺り)の直上辺りに位置づけるという意図を持つのもよい。ただし,それらをその位置で固定しようとは思わないようにする。
  • 実行者が自身の状態に気づかずに体位維持活動を放っておけば,実行者の姿勢は,骨盤スライド後傾,胸郭前傾,頭部前方突出,頸椎伸展の状態になりやすい。実行者は気づいたときに,殿部を後ろにして頭を最高位置に位置づけるという指示を繰り返し出す必要もあるだろう。

第6章その4につづく)
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