第10章 体の使い方へ向ける注意(その1)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声
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1. 外界目的注意と自己ユース注意の統合

有利な体の使い方を実現するために,実行者は自身へ気づき,意図的に体を導くことをこれまでに述べた。これは,有利意図の人に自身の体の使い方に一定の注意を向けることを推奨する私の考えである。

実行者が注意を向ける対象は,自身の体の使い方だけではないのは当然のことで,自身の外界の状況にも注意を向ける必要がある。スポーツでは,刻一刻と変わる外界の状況にいかに対応していくかが求められるであろう。スポーツに限らず,その他の活動においても,私達の活動目的は外界の変化に対応したり,外界に変化を与えていくこととみれば,こうした外界への注意は当然あるべきものである。

私は,一定の割合の人は,様々な行為において外界の状況,またはその行為の目的達成のみに注意を向け,自身の体位維持の仕方を含む体の使い方に注意を向けなくなると考えている。このことは,実行者がする行為が慣れた行為でも,初めて行う行為であっても同じである。実行者は慣れた行為であれば,全ての動きを自動プログラムに任せられるだろう。このため,実行者はその行為と全く関係のないことを考えながらでも,それをある程度行えてしまうだろう。車の運転はこれにあたり,ドライバーは外界の状況を考慮して運転するが,自身の体の使い方のことを考えない。そして,運転以外のことを考えていることもあるだろう。実行者が初めてする行為であっても,即席保全という自動プログラムに任せる形で自身の体には注意を向けず,外界に変化を与えるなどの目的を達成することのみを考えて行っていることになろう。例えば,初めて編み物をした人を考えてみる。この人は「どのように編むのか」に全ての注意を向けて,自身の体位維持の仕方に関係する支持部位のことや筋緊張の状態,または呼吸の状態といったものには注意を向けないことは容易に想像できる。



こうした外界の状況や目的達成のみの注意で行為を達成し,何度繰り返してもその後も何も問題が起こらず,人よりも優れたパフォーマンスを発揮できる人もいるだろう。こうした人は幸運な人と私は考えている。こうした人は,有利な体の使い方を定着させていて,人前であろうが心理的なプレッシャーがあろうが,それを意図せずに実現できる人なのではないかと考えている。こうした人は,天才を持った人といえるかもしれない。

幸運な天才を持つ人以外の人は,外界の状況や目的達成のみの注意で行為をしていると,パフォーマンスが向上しない,体に故障や痛みが起こるなど,どこかでその人に問題として表れてくるのではないかと考えている。それは,実行者のその注意の仕方では自身の体位維持活動を不利なものにしやすいからである。このため,有利意図の人はよりよい状態へ向上させるにあたって自身の体位維持を含めた体の使い方に一定の注意を向ける方がよい。これが私の主張であり,私が推奨することである。

実行者がその注意を外界の状況変化や行為の目的達成に向けることを,ここでは「外界目的注意」と呼び,実行者がその注意を体の使い方を有利なものにすることに向けることを「自己ユース(USE)注意」と呼ぶことにする。「実行者が自己ユース注意を持ってある行為をする」と言った場合は,実行者が前章までに解説した有利な体の使い方の意図を持ち,それを実現しているかどうかを確認していくことに注意を向けながら,行為をすることを表している。

私は,私達がこの両方の注意を同時に持ち続けることが可能であると考えている。また,どちらか片方だけに一貫して陥るのではなく,この両方の注意を適度に持った状態が有利意図の人にとって理想的な状態となると考えている。つまり,実行者が自己ユース注意と外界目的注意の両方を統合した注意を持つことで,よりよい状態や感覚,結果を導きやすいと考えている。

実行者一人だけでこの注意の統合を試みる場合には,実行者の注意が過度に自己ユース注意に偏ったり,違和感からパフォーマンスが向上しない場合もあるなど,特に是正をしていく過程において難しさはあるだろう。レッスンでは指導者の導きによって,クライアントはこの注意の統合を実現し,よりよい結果を生む体験を得られる。実行者は指導者と共に行うことで,より注意の統合をスムーズに行いやすくなる。このように,実行者はこの注意の統合を訓練によって体得できる。実行者はこの統合した注意を持って行為をし,よりよい結果やその感覚を得ていく経験を増やすことで,違和感をなくすことができ,よりよいパフォーマンス,安定したパフォーマンスを実現していけるようになるだろう。

第10章その2につづく)
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