3. 外界目的注意と自己ユース注意の統合の仕方(つづき)
自身を適切に客観視した身体イメージ形成に貢献する
実行者が外界目的注意に自己ユース注意を加え,統合した注意を持つようにしていくと,実行者は自身を適切に客観視した身体イメージや動作イメージを形成しやすくなると考えている。自己ユース注意は,鏡やモニターを通じてしか自分では見ることのできない頭への注意を含む。頭は第三者の目線ではじめて見ることができる自身の部位であり,実行者がこの頭へ注意を向けることは自身を適切に客観視したイメージの形成を促すものとなる。
頭まで含む客観的身体イメージの形成は,実行者の活動のパフォーマンスをよりよいものにすると考えている。特に動作や姿勢の客観性がパフォーマンスの成否となるダンスや演技,フィギュアスケートなどの表現の競技などにおいて,演技者のパフォーマンス向上に貢献するだろう。こうした活動の評価者は,演技者の頭までを含めた全ての体の動きと姿勢を見ている。演技者が客観的身体イメージを形成できれば,演技者は評価者が見ているものと同じ頭までを含めた体全体をイメージすることができており,自身の体全てを漏れなく評価者に表現したいものに近づけることができるようになる。これは演技者に関わらずだが,私達は頭のことを忘れやすい。演技者が自身の頭を動作イメージの中に含まない場合は,頭が適切に位置づけられなくなることも起こり,演技者が演技したものと評価者が見るものとでギャップが生じる場合がある。
また,実行者は,頭までを含めた客観的身体イメージを形成することで,立骨重心制御状態を動作中に維持しやすく,動作時における体位維持のための筋緊張の度合いを軽減しやすくなる。頭は,構造的に重量バランスに影響を与えるもので,かつ慣性の影響を受けやすい。このため,実行者が頭を適切に制御しない場合は,実行者は自身の状態を骨傾斜容認状態としてしまったり,過剰共縮制動を採用してしまいやすい。これも実行者のパフォーマンスを左右することになる。
なお,客観的身体イメージを形成することで,それがイメージの形成であることから,実行者は瞬時に全体に注意を向けられるようになる。スポーツなどの活動においては,実行者が常に状況を自身の制御下に置き,戦略的に対処できるわけではないだろう。突発的な事態や予期せぬことも多々起こる。瞬時に全体に注意を向けられることは,こうした際において実行者が適切な処置を採りやすくするものとなるだろう。
有利意図の人は,このようによりよいパフォーマンスを導くことに貢献する客観的身体イメージを瞬時に形成できるように,日頃から外界目的注意に加えて自己ユース注意である体位維持活動への注意を向けるようにしておくとよい。
(第10章おわり。第11章「アレクサンダー・テクニークが有効である理由とその補足すべき点」につづく)
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