第4章 即席保全の自動プログラムとその影響(その3)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




2. 即席保全の自動プログラム定着とその暴走

過剰な体位保全の状態

この過剰な体位保全の仕方を喩えで説明したい。ある実行者が野球のバットを床面に立たせるという行為で考える。実行者は,バットのボールがあたる方を上にして,グリップエンドを下にして,バットを立たせるようにする。グリップエンドは,フラットな構造ではなく楕円状になっているものとする。このため,実行者はバットを立たせようとして,その重心位置を適切に支持基底面上に位置づけようとしても,手を離せばバットは倒れてしまうことになる。このバットは他に支えがなければ倒れてしまうことから,立てるには構造的に不安定なものといえる。図4—1に示している。

図4−1 野球のバットを床面に立たせる方法

図4−1 野球のバットを床面に立たせる方法

実行者が手を用いてこのバットを立たせる二つの方法を比較する。一つは,Aのように重心位置を適切に支持基底面上に位置づけることを行いながら,倒れようとするバットを,指で軽く触れるように支えて元に戻すことを連続的に行う方法である。バットは様々な方向に倒れようとする中で,実行者がバットを指で戻すときも,戻るべき平衡位置を行き過ぎさせてしまうなどから,バットは多少揺れることになる。別のやり方はBのように,手でしっかりとバットを握り,動かないように抑止してしまうことである。この場合,バットは揺れなくなる。

実行者はどちらのやり方でもバットを立たせることを達成するが,一つの違いは支えるにあたっての指や手の力である。Aでは実行者は軽い力でバットを支えられたが,Bでは握りしめる程度の強い力でバットを支えることになる。もう一つの違いは,元に戻そうとする態度である。Aでは,実行者ができるだけ元の適切な状態に戻そうと連続的な対処を行っているが,Bでは,実行者がその必要性を感じにくく,元に戻そうとしなくなるかもしれない。Bの場合では,実行者は強い力でバットを支えるが,「バットの重心が適切に支持基底面上にない状態で支えるときに求められる力」よりも大きい力で支えてしまっている場合があるからである。このような状態では,バットが仮に傾いていても,実行者は支える力を変えなくともよいため,負担の変化を感じにくい。実行者が強い力で支えているために,重心位置は負担とは関係のないものとなっており,実行者はそれを適切な状態に戻そうとする必要性を感じなくなる。

私のいう過剰な体位保全の仕方とは,このBのような支え方である。

私達の体も立位や座位では,筋の支えがなければ倒れてしまうことから,このバットのように構造的に不安定なものとなる。私達は,体を筋で支えることになる。その支え方をAのように,体の重心を支持基底面上に適切に乗せて,倒れる体を元に戻し続ける仕方で行えば,軽い力で済むのである。しかし,即席保全の自動プログラムを定着させた人は,Bのように体全体の筋緊張を強くして保全することになる。結果的に,実行者は重心を適切位置に戻す必要性を感じにくくなる。このため,筋負担は大きくなる。実行者は,静止時と動作時に関わらず,こうした過剰な保全の仕方を一貫して行ってしまう。このため,負担は蓄積されることになる。

過剰な筋緊張を加えて体位維持を行う習慣を持つ人は,バランスボードの上に乗ると,すぐにバランスを崩しやすい。支持面となるバランスボードが揺れるため,実行者はバランスボード上では常に動いてバランスをとる必要があるのだが,こうした人は筋緊張を強くして体を止めようとしてしまい,動かなくなってしまうからであろう。
なお,一定の割合の人は,心理的なプレッシャーや強いショックを受けた際に,「体が固まる」ような状態になる場合があるが,これは実行者が立位や座位時の静止状態で過剰共縮制動をしてしまったものと考えている。過剰共縮制動による体の抑止の仕方は「確実に倒れないようにする」という安全確実の価値を実行者に与えるものでもあり,実行者は心理的なプレッシャーを受けた際に「確実に倒れないようにする」体位維持の仕方を無自覚で採用してしまうのではないかと考えている。このことは第9章で詳しく述べる。



臥位時に筋緊張を継続させてしまう

即席保全の自動プログラムを定着させて,強い筋緊張の感覚に慣れている人は,筋収縮が全く必要のない時にそれを起こしてしまうこともある,と考えている。その一つが,臥位時に筋収縮を進めて,体に強い筋緊張を加えてしまうことである。
臥位の体位では,実行者は体を起こすわけではないため,実行者は体位維持のための筋群を筋収縮させる必要はなくなる。この臥位時に,必要がないにもかかわらず筋収縮を継続させてしまい,筋緊張を強いものにしてしまう人が一定程度いる。
こうした人は起きている際に過剰な筋緊張を継続させているため,筋緊張を強くしていることをデフォルト状態と錯覚しているのではないかと考えている。このため,必要がないにもかかわらず,臥位時にもその強い筋緊張を継続させてしまうのではないか,という考えである。

レッスンでは,クライアントに仰向けの臥位になってもらい,私が脚,腕,頭を動かすことを行う。この際に,一定の割合の人が首や肩,股関節などを筋緊張で固めてしまっていることを観察してきた。これらの筋緊張は,頭や胴体,腕を支えようとする実行者の反応である。こうした人は,股関節では梨状筋などの股関節外旋の筋群を筋緊張させていやすい。これは骨盤スライド後傾の状態を支える際の一つの反応である。肩甲骨周りの筋群の筋緊張も強くしているが,これは腕を支える反応である。首の筋群の筋緊張も強くしているが,これは頭を支え続ける反応である。これらの反応は,実行者が体を起こしている際の即席保全の対処の仕方で見られる反応である。

即席保全の対処に伴う強い筋緊張というのは,実行者が体を起こしている際には「過剰な筋緊張」と呼べるものであり,それには体を確実に倒れないようにするメリットもあった。臥位の際における強い筋緊張というのは,過剰と表現すべきものではなく,メリットや必要性の全くない不要な対処でしかない。これは脳と運動感覚神経による過剰活動ではなく,誤作動(マルファンクション)と呼べるものだろう。

ストレスや心理的プレッシャーを受ける状態が続くような人には,就寝時に臥位となった際にも強い筋緊張を続けてしまう傾向が多くみられるように感じる。この反応は,ストレスやプレッシャーによって,その人の自律神経の交感神経亢進が就寝時にも継続してしまうからともいえる。私は,即席保全の自動プログラムによる誤作動のために,こうした人が臥位時に筋緊張を継続させてしまう可能性があると考えている。この誤作動が,その人の交感神経亢進に後押しされる形で起こってしまっているのではないかという考えである。

この考えに基づいて私はレッスンを行っているが,実際にクライアントは臥位時の余計な筋緊張を自身で除くことができるようになる。また,これによって,「寝付きがよくなった」,「睡眠が深くなった」というクライアントの感想を聞くことは多い。実行者は無自覚で継続させてしまった筋緊張を意図的にとることで,筋緊張の促進要因の一つである交感神経亢進をも抑制できるのかもしれない。

第4章その4につづく)
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