第4章 即席保全の自動プログラムとその影響(その4)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声
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目次

2. 即席保全の自動プログラム定着とその暴走(つづき)

腕を用いていない際に肩甲骨周りの筋群の筋緊張を過剰にする

即席保全の自動プログラムを定着させている人が,起こしやすいもう一つの不要な反応がある。それは,実行者が立位や座位で腕を用いていない際に,肩甲骨周りの筋群の筋緊張を過剰にすることである。

私達は腕を動かす動作の際に,肩甲骨周りの筋群を用いることになる。即席保全を定着させている人は,腕の過剰共縮制動を行ってしまい,これらの筋群の筋緊張を過剰にすることになる。私達が腕を動かすことは多く,そして長時間用いることから,即席保全を定着させている人は,肩甲骨周りの筋群の過剰な筋緊張状態を長時間継続させることになる。そして,こうした人は強い筋緊張の感覚に慣れることになり,脳による自動的な指示生成とあいまって,腕の動作が関わらないときにも肩甲骨周りの筋群を過剰に筋緊張させてしまいやすい。

私達が腕を動かすことは多く,かつ長時間用いることから,たとえ実行者の腕の使い方が適切で筋緊張を過剰にしていなかったとしても,実際に使っている肩甲骨周りの筋群は疲労し,実行者はそれを筋のこりなどとして感じる場合がある。この筋の疲労やこりの感覚は動作後に腕を使っていない際にも継続する。この実行者が感じる筋の疲労やこりの感覚も,筋緊張の感覚に類似するものである。このため,それがあることで実行者の筋緊張の感覚は鈍くなり,実行者は肩甲骨周りの筋群の強い筋緊張を継続しやすいと考えている。

実行者が肩甲骨周りの筋群の筋緊張を強くするという反応は,実行者が腕を使っているような反応といえる。腕を使っていない時は,実行者は腕を体軸から吊り下げるだけでよく,肩甲骨周りの筋群を筋収縮させる必要はない。一定の割合の人は,このような時に腕を使っている際のように肩甲骨周りの筋群を筋収縮させている。これは「腕を肩で持ち続けている」ような状態ともいえる。これは不要な反応であり,自動プログラム定着による暴走と呼べる反応である。これは更なる筋群負担となることから,肩こりを促進させる要因となる。



腹筋群と首の筋群の筋緊張と連鎖して生じる様々な不必要な反応

実行者が即席保全でいれば,腕の動作の際に,腹筋群と首の筋群を強く筋緊張させる過剰共縮制動に加え,腕の筋群を強く筋緊張させる腕の過剰共縮制動も行うことになりやすい。そして,このような反応を自動プログラムで定着させている人の一部は,腕の動作ではないにもかかわらず,腹筋群や首の筋群を筋緊張させた際に,上肢の筋群も連鎖反応で筋緊張させてしまい,手首や肘や肩の関節を固めてしまう場合がある。

こうした反応で顕著なものが,実行者が発声時に腕や肩の筋緊張を強くしてしまうことである。発声には腕の動作は関係がなく,実行者は発声の際に腕や肩に筋緊張を加える必要はない。こうした反応が起こる理由は,即席保全の自動プログラムが実行者に定着していて,発声のための腹筋群の筋緊張に腕や肩の筋群が反応しやすくなっており,それらをセットで筋緊張させるプログラムが実行者に構築されているからではないかと考えている。

または,私達は人と話すなどの発声の際に手振りを行う場合があるが,一定の割合の人はその手振りの仕方を速くするなどで,腕の過剰共縮制動を行って手振り動作を行うために,この反応を起こしてしまうのかもしれない。こうした人は「話す際に手振りを入れる」という自動プログラムを構築しているのかもしれない。こうした人は,初動が速く,止まるのも力が必要な手振りの仕方である「カクカク」と動くような手振りとなっていやすいだろう。そして,こうした手振りを話す間に一貫して続けていたり,手振りの動きはなくとも,手首を固めながら話していたりすることが起こる。

発声以外の際では,歩く動作や,体位や姿勢を変える際などで重心変位が起こる際にも,実行者が腕や肩の筋群の筋緊張を強くしていくことがある。これも,体を支える骨を制動するために腹筋群と首の筋群を筋緊張させていくことになるが,それに呼応して上肢の筋群の筋緊張を強くしている反応と考えている。例えば,実行者が体を反転させて振り返る動作をするだけでも,実行者は腕や肩の筋群の筋緊張を強くして,指,手首,肘,肩を固めようとする。腕で体全体のバランスを取っているようにもみえる。実際に腕でバランスを取っているのかもしれないが,その必要はない。実行者は,上肢の筋群の筋緊張を強くせずとも,振り返ることはできる。これは不要な反応といえる。

ここでは,実行者が,腹筋群と首の筋群の筋緊張に呼応させる形で上肢の筋群の筋緊張を強くするという連鎖反応を起こしていることを挙げたが,他にも腹筋群と首の筋群の筋緊張に呼応させる形で,起こしやすい連鎖反応がある。それは,顎の筋群と口周りの筋群の筋緊張である。

一定の割合の人は,下顎骨を動かす咬筋や側頭筋などの筋緊張を,腹筋群と首の筋群の筋緊張と同時に起こしやすい。実行者は,過剰共縮制動によって腹筋群と首の筋群の筋緊張を強くする。首の前側の筋群の一部は,下顎骨に付着しており,その筋緊張は下顎骨を下方に牽引することになる。この下顎骨の牽引に拮抗するために,実行者は咬筋や側頭筋の筋緊張を強くするのではないかと考えている。

デスクワークのタイピング動作の際に,咬筋や側頭筋の筋緊張を強くして噛み締めている状態で行ってしまう人が一定程度いる。これは,実行者がタイピング動作のために過剰共縮制動を採用していて,腹筋群と首の筋群の筋緊張を強くしている中で,同時にこの牽引に拮抗していこうとして下顎支持の筋群を働かせているからではないかと考えている。実行者は,このようにすることで下顎骨を固定できるものの,下顎骨を固定する必要はない。実行者が下顎骨支持のためにここまで筋緊張を強くする必要はないことから,これも余計な反応といえる。

私達の噛む力はとても強く,噛み締め癖の影響は大きい。噛み合わせにも悪影響を与えるだろう。また,睡眠時の歯ぎしりや顎関節症の原因にもなると考えられている。

一定の割合の人は,顎の筋群だけでなく,口周りの筋群の筋緊張も,腹筋群と首の筋群の筋緊張と同時に強くしている。特に,口角を上げる口角挙筋や笑筋と,口を閉じる口輪筋などの筋緊張を強くしやすい。この場合,実行者は口角を上げて口を強く閉じるようにすることになる。これらの筋群が反応する理由も,下顎骨支持の筋群が反応する理由と同じであると考えている。実行者の過剰共縮制動による腹筋群と首の筋群の筋緊張により,下顎骨が下方に牽引されるが,これに対して口周りの筋群が拮抗していく反応と考えている。この反応を定着させている人は,様々な動作や状態の際に口を強く閉じるようにする。噛み締めの影響に比べれば,「口を強くつぐむ」ようなこの反応は大した影響があるわけではない。しかし,不要な反応であることには変わりない。

第4章その5につづく)
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