第4章 即席保全の自動プログラムとその影響(その5)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




3. 至りやすい体の症状,パフォーマンスや呼吸への影響

骨傾斜容認や重心乖離容認の際の張力事後対応と,動作時の過剰共縮制動が,実行者が即席保全でいた時の対処の仕方である。それらは不利な体位維持の仕方となることから,実行者が即席保全の態度でいて,これらを採用していれば,実行者は不利な姿勢や動作の仕方を続けることになる。また,即席保全の自動プログラムを定着させてしまった場合は,実行者は立位姿勢時に過剰共縮制動を行っていたり,臥位時にも強い筋緊張を継続させてしまうなど,更なる不利な状態にも至りやすい。これが前節までで述べたことである。

実行者が即席保全の自動プログラムを定着させた場合は,体に問題となりやすい負担を与え,機能を制約し,動作を非効率的なものにすることになる。そして,実行者の活動のパフォーマンスを劣化させることになる。以下に,この場合において,実行者の至りやすい症状,動作やパフォーマンスへの影響,呼吸への影響を具体的に述べる。

至りやすい体の症状

即席保全の傾向に陥り,不利な体位維持の仕方を継続している人は,以下のような症状に至りやすい。即席保全の対処の仕方は,こうした症状の促進要因となり得ると考えている。

・首,肩,背中のこりや痛み ・腰痛 ・五十肩 ・股関節痛 ・膝関節痛
・椎間板ヘルニア,脊柱管狭窄症,脊椎すべり症 ・坐骨神経痛
・腱鞘炎 ・手根管症候群 ・胸郭出口症候群 ・顎関節症
こうした人で体の負担の程度が相当に大きい状態が過度に続いた場合は,以下のような症状にも至り得ると考えている。問題の促進要因の一つにもなりうると考えている。
・頭痛 ・線維筋痛症 ・慢性疲労症候群 ・吃音 ・ジストニア

動作やパフォーマンスへの影響

実行者が動作や様々なパフォーマンス活動の際に,骨傾斜容認や過剰共縮制動といった即席保全のパターンを採用している場合には,次に述べる四つの悪影響を被ることになると考えている。

①自身の力を最大限に発揮しきれない

実行者が骨傾斜容認で体を支える骨を動かすことを容認していれば,実行者は自身の本来の力を最大限に発揮できなくなると考えている。ここでの「力」とは,力学的には仕事やパワーの意味である。

例えば,ウェイトリフティングをする実行者が,ウェイトを持ち上げる際の姿勢を猫背のようにして脊柱を屈曲させている状態で行えば,実行者が持ち上げられる限界ウェイトは低いものとなるだろう。同じ実行者が,「腰を入れる」ようにして骨盤と脊柱を立骨状態にして行えば,より重いウェイトを持ち上げられるだろう。

なぜなら,実行者はウェイトを持ち上げようとした際に脊柱などの体を支える骨を支える必要があるが,前者の姿勢では体を支える骨を支えられる限界がより低くなるからである。実行者は骨傾斜容認状態だったことから,その体を支える骨は動きやすい状態であり,実行者はそれを筋の依存度を高めて止めている状態であった。実行者がこうした状態でいる中で,ウェイトを持ち上げるための筋の牽引や骨を通じた作用力が生じ,体を支える骨に動かされる力が働くことになる。実行者は,こうした力に拮抗しようとして背筋群などの筋で体を支える骨を止めて,ウェイトを持ち上げようとする。しかし,体の重量による荷重や骨の反力を体を支える骨の抑止に活かせないために,筋力でこうした力に拮抗できる限界を下げてしまうことになる。体を支える骨を支えられる限界を下げてしまうことになる。

同じ実行者が後者のように立骨重心制御して行えば,自身の重量の荷重と骨の反力を体を支える骨の抑止に活かすことができ,より少ない筋力で体を支える骨を止めることができる。これは,体を支える骨を支えられる限界を上げられたことを示している。このため,実行者はこのやり方によって,前者のやり方よりも重いウェイトを上げることができる。このことから,ある実行者が前者のやり方で行った場合は,その人の本来持つ力を最大限に発揮できていなかったといえるだろう。

野球の投手がボールを投げるとき,ゴルファーがボールを打つ時,空手で相手をけるとき,ボートのレースで力強くこぐとき,管楽器演奏で力強く吹くとき,バイオリン演奏でスピードを持ってひくとき,高い声や大きな音量の声を出すときには,本人は最大の力を発揮しているつもりであろうが,結果的には本来の力を活かしきれておらず,発揮できる力が低減している場合がある。

多くの場合は,実行者は複数の行い方を比較していくわけではなく,実行者は自身が本来の力を発揮していないことに気づきにくい。調子のいい時はよりよくできるが悪いときはそこまでできない,練習ではもっとできるが本番では練習のようにはできない,などの差を感じる人は,この点を疑った方がいいかもしれない。また,実行者が感覚として「力がのっている感覚がない」ように感じることもあるかもしれない。体位維持や制動の仕方の違いが,この感覚の差を与えている可能性がある。

②疲労しやすさ

実行者が動作時に骨傾斜容認でいれば,体を支える骨を動かしてしまい,目的動作や制動のための筋収縮の目的仕事転化効率が悪化することを述べた。筋収縮の効率が悪化するということは,実行者は目的動作を行うにあたって筋収縮をより進めるということを意味している。このため,筋収縮の効率が悪化する仕方で実行者が動作すれば,実行者は疲労しやすいといえる。

歩いてあるところまでいく,椅子の上に座ってデスクワークする,炊事をする,ダンスをする,ギターをひくなど,こうした多くの行為を私達は全て達成するだろう。しかし,実行者が即席保全でいれば,実行者はそれらを達成するにあたって筋収縮をより進ませることになり,より疲労することとなる。この疲労促進は,マラソンなどの特に持久力が関係するようなスポーツでは結果に影響する要素となる。日常生活をしている中で,疲労から体のだるさを感じ,そして疲労が取れないように感じる人は,この疲労促進の影響を被っているかもしれない。

③動きの固さ

実行者はより強い筋緊張の状態で動くことになるから,実行者の動きは固くなりやすい。

筋緊張が動きの固さをもたらすことについて,ダンスにおける腕の動きで考える。実行者が即席保全でいて,腕を動かす際に過剰共縮制動を行い,さらには腕の過剰共縮制動も行ったとする。この場合,実行者は腕を動かすときに腹筋群や首の筋群の筋緊張を強くして,また脇から肩にかけて筋群の筋緊張を強くする。実行者は目的の腕の動きを実現しているだろう。しかし,その時の筋緊張は緩和できたものである。このため,その筋緊張は過剰なものとなる。この過剰な筋緊張により,実行者は指導者から「動きが固い」「しなやかさがない」と指摘されたりするかもしれない。

また,実行者は腕を大きく広げようとして動かすこともあるかもしれない。この場合も,やはり脇や肩の筋群の筋緊張を必要以上に強めることになり,腕は体幹から強く牽引されることになる。この結果,実行者は腕を大きく広げられない,または大きく広げているようには見えない動きをしていやすい。腕で囲った範囲面積が小さいかどうかは,他者が見てもわからないかもしれないが,筋緊張が強いことは他者が見てわかることである。その見える筋緊張の強さゆえに,実行者が腕を大きく広げているようには他者には見えない。これも指導者から「動きが小さい」と指摘されるものとなるかもしれない。

ダンスでは,「しなやかさ」も評価される要素であるため,この動きの固さや余計な筋緊張はパフォーマンスの質を劣化させるものとなる。

バイオリン奏者やピアノ奏者が演奏で腕を動かすときに,このように余計に筋緊張させていたとすれば,その演奏者は指導者から「腕の重みを使えていない」と指摘されるかもしれない。また,人と話す際に手振りを入れることがあるが,その手振りの仕方が固い人がいる。これも腕の過剰共縮制動の過剰な筋緊張による影響である。こうした人は,話す相手に「固い」印象を与えやすいだろう。

④力の発揮の反応に後れが起こる

実行者が骨傾斜容認でいて,動かすべきでない体を支える骨を動かしてしまえば,実行者の力の発揮が目的のタイミングから後れることになりやすい。例えば,実行者が重いものを持ち上げようとしたときに,先に体幹の制動の筋群に筋緊張を起こして体を支える骨を少し動かしてしまい,それに少し後れて重りを持ち上げていく,というような力の発揮のタイミングの遅れである。この場合の反応の後れは,1秒以内の非常に短い時間単位の反応の後れとなろう。特に一定の力の強さが要求されるような動作の場合は,筋が体を牽引する力も大きいために,体を支える骨は動きやすくなる。動いてしまう場合は,実行者の力の発揮のタイミングが一瞬後れることになる。この場合,先に加わる筋緊張は「力み」といわれるものとなる。

楽器演奏,歌唱,ダンスなどのパフォーマンスでは,この力の発揮のタイミングの後れはパフォーマンスの質を下げる要素となる。また,スポーツや格闘技などにおいても,実行者の瞬時の反応の良さがパフォーマンスを左右することになりやすい。格闘技では相手がおり,実行者がある動きをしようとしたときに先に体に強い筋緊張が生じれば,相手に動きを見破られてしまう可能性が高くなる。

発声する際における力発揮のタイミングの遅れの影響については,日常の会話程度であれば,それは問題にはなりづらい。歌唱などのある程度の力が求められる発声の場合には,実行者のパフォーマンスを劣化させる問題となる。タイミングの後れがある人は,それがない人と比べて,声は「重たく」聞こえるものとなり,「軽さ」や「はずみ」のある声ではなくなる。

以上の四つの悪影響が,即席保全の定着によって,実行者の動作やパフォーマンスに起こりやすいと考えている。

「きれのいい動き」という表現があるが,即席保全のパターンの採用によって,総じて動作の「きれのよさ」が失われることになるように感じられる。スポーツや演奏,ダンスなどの上達者は,しなやかでありながらも,瞬時に力強い動きも起こせる。彼らを見ると,それほど力を入れていないように見えたり,軽く動いているように見えるだろう。上達者は,有利な体位維持の仕方を実現する感覚を,その経験から身に付けており,不利な即席保全のパターンを経験的に回避しているのではないかと考えている。

第4章その6につづく)
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