第5章 有利な体の使い方の方針と実現するための留意点(その1)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




前章までに,有利な体の使い方のために必要なことを,その根拠を含めて説明してきたが,それをここで整理して述べる。これは有利な体の使い方の方針となる。方針を述べた上で,有利な体の使い方を目指す人が,これらを実現する際に特に留意すべき点も整理して述べる。有利な体の使い方を実際に実現するにあたっての具体的な指示の仕方については,次章以降で述べる。

1. 有利な姿勢や動作の仕方の方針

①自身の状態に気づき,体位維持も含めて有利な体の使い方の意図を持つ

ある人が体位維持活動を即席保全の自動プログラムに任せていても,その人は体位維持を達成できる。しかし,その体位維持の仕方は有利性が優先されたものではなく,即席性が優先されたものとなる。結果的に,その人の体の負担はより大きくなり,動作の質は低下する。これにより問題を抱えていて,その是正を考える人は,有利な体位維持の仕方の実現を目指すべきである。

有利な体位維持の状態は,実行者が注意を向けずに即席で実現できるものではなく,ストラテジーを持ってマネージメントして実現するものである。つまり,有利な体位維持状態の実現には,実行者の一定の注意と思考を要するということである。有利な体の使い方を目指す人は,自身の体の状態に気づき,意識的に最適な体位維持とそれを基にした動作を選択していくのである。是正を目指す人は,これによって体位維持活動についての脳の認知過程を活性化させることができ,即席保全の自動プログラムを是正していくことが可能となる。

このように,私達が有利な体の使い方を実際に実現するにあたっては,私達の注意と思考という「意識的な企て」である「意図」を要するものとなる。ここでは,有利な体の使い方を目指す態度のことを「有利意図」と呼び,そして,有利な体の使い方を目指す人を「有利意図の人」と呼ぶことにする。

有利意図の人は,自身の体の使い方に注意を向け,適切なものを選択するなど思考していくことになる。実行者が自身の体の使い方に注意を向けて思考していくことは,実行者がそれを習得して身に付けられれば,実行者の目的行為や外部環境状況などに向ける注意や思考を大きく妨げるものではない。しかし,是正の過程では,実行者には自身の体の使い方への注意と思考がより求められるため,是正を目指す人には時間的な余裕が必要となるだろう。是正を目指す人は,時間的な余裕を持てる日常動作の中で,有利な体位維持を意図して実現していくとよい。それが身につけるための訓練となる。自身への注意の向け方については,第10章で詳しく解説する。



②姿勢は立骨重心制御を意図する

有利な体位維持の仕方は,立骨重心制御による体位維持の仕方である。それは,実行者が足底から頭までの体を支える骨を立骨状態として,重心を支持基底面上の適切位置に位置づけることである。実行者が立骨重心制御をすることで,本来働くべき筋群の働きを促し,筋や靭帯の負担を限定的なものにして,体を支えることができる。

有利意図の人は,立骨重心制御を静止時にも動作時にも行うようにする。動作の際には,目的動作のための筋収縮による牽引や関節を通じた作用力に加え,実行者が過剰共縮制動をしていれば腹筋群や首の筋群の筋緊張による牽引もあり,それらによって実行者の体を支える骨には動かされる力が働くことになる。そして,実行者の重心も乖離しやすくなる。有利意図の人は,これらの力を受けても骨傾斜と重心乖離を容認せずに,本来働くべき筋群を適切に働かせて,体を支える骨の立骨状態を維持し,重量配分を考えて重心を適切位置に位置づける対処をとるのである。実行者は,このように制御することで,その体位維持の状態で行う動作や発声,呼吸を有利なものにできる。

③重鎮基底制動で体を制動し,過剰共縮制動を採用しない

有利な動作の仕方とは,効率的な動作の仕方のことであり,実行者が最小限の筋緊張で目的を達成していく動作の仕方のことと考えている。これは,実行者が無思慮な過剰共縮制動を採用していては実現できない。実行者が効率的な制動を行うことで実現できるものである。効率的な制動とは,実行者が動作時に,支持部位接面部で支持面に最大面積荷重をかけることで支持部位を抑止し,その抑止を基に体を支える骨を安定化させるという制動の仕方である。これは,第2章で説明した重鎮基底制動となる。有利意図の人は,動作時に重鎮基底制動を行うようにする。

有利意図の人は,不利な制動の仕方である過剰共縮制動を採用しないことも考慮する。実行者は,過剰共縮制動を採用しないようにするために,腹筋群や首の筋群をできるだけ筋緊張させないようにすること,立骨重心制御をすること,過剰共縮制動が求められない速度で動作を行うこと,バルサルバ操作を用いないこと,に留意しておく。

④動作時は目的端先導を意図する

有利意図の人は,動作時には立骨重心制御と重鎮基底制動に加えて,目的端先導の意図を持つようにする。動作の際に,実行者は目的の動作や状態を導く先導端となる部位を決めて,その部位を動かす意図を持ち,筋収縮や関節変位は自動的に行われると考慮するのである。実行者は,この意図を持つことで,即席保全で無自覚で得やすい「筋緊張の感覚を得ようとする」または「筋や関節を使う」動作意図を回避しやすく,過剰な筋緊張を抑制できるようになる。

立骨重心制御を行うにあたっても,重鎮基底制動を行うにあたっても,実行者は意識的に部位を動かす必要がある。実行者が意識的に部位を動かすにあたっては,実行者が自身に指示を出すことになるが,その指示は目的端先導の意図による指示が適切なものとなる。

目的端先導の意図は,様々な動作や行為に応用できると考えている。これは,体の部位の動き,道具を使った際の動き,発声や呼吸といった内的な動きなどにも応用できる。導く先導端は体の表面部位だけではなく,道具の部分や,声や楽器の音などにもなる。

⑤姿勢変化の際に脚を使って体の重心を適切に制御する

実行者が動作をする際には,姿勢変化も起こる。そして,実行者が重心乖離容認でいれば,実行者の重心は支持基底面上の適切位置から乖離することになる。この場合は,実行者の体位維持の仕方が立骨重心制御状態とならず,実行者の姿勢や動作が有利なものにならない。有利意図の人は,動作時に,姿勢変化が起こることを考えて,重心を適切に制御していくようにする。その際に,脚を用いて骨盤を立骨状態とし,重心を支持基底面上の適切位置に位置づけるようにする。有利意図の人は,脚の関節である足関節や股関節,そして膝関節を用いて,前後や左右の重量配分を調整する。そして,骨盤とその上の上半身は立骨状態を維持する。実行者はこうすることで,腹筋群と首の筋群の筋緊張を最小限に留められることに加え,問題になりやすい負担を最小限のものに留められる。呼吸などの機能も制約しなくなる。

第5章その2につづく)
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