第5章 有利な体の使い方の方針と実現するための留意点(その2)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声
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2. 方針の実現にあたって特に留意すべきこと

以下に,有利な体の使い方を目指す人である「有利意図の人」が,前述した方針を実際に実現していくにあたって,特に留意すべきことをまとめる。

①体の支持部位を考慮し,支持面に「体を置く」

立骨重心制御の重心制御とは,支持部位と起こしている体の関係の制御であり,その実現を目指す人は支持部位を考慮していくことになる。重鎮基底制動は,立骨重心制御状態を動作中も継続させる処置であり,支持部位の抑止を基にした制動であるから,これも実現を目指す人は支持部位を考慮していくことになる。また,支持部位と床や構造物との接面部においては,摩擦が生じることになる。この摩擦も支持部位を止めるために実行者が用いる要素となる。実行者は支持部位を考慮していくことで,摩擦を有効に活かせるようになる。

私達は支持部位のことを考えずとも体位維持を達成できるため,私達はあまり支持部位のことを考慮しないだろう。しかし,支持部位の上に適切に自身の体を乗せることは,有利な体の使い方の基盤となるものである。この一見当たり前にできているように思われることを,実は多くの人は適切に行っていないと考えている。有利意図の人は,「支持部位の上に立つ」という当たり前のことを再認識し,支持部位を考慮していくようにする。

実行者が支持部位を考慮した上で,支持部位接面部で床面に最大面積荷重をかけるようにすることが適切な処置となる。有利意図の人は,これを実現するために「体重を支持部位に預ける」ことを意図するとよいと考えている。実行者がこのように意図することで,支持部位接面部全体に体重を乗せることを促しやすくなる。

また,実行者が「体重を預ける」と意図することで,抗重力筋群の適度な働きを促すと同時に,「預ける」という手放す意図によって,その体位維持の仕方を信頼して余計な筋緊張を手放しやすくなり,腹筋群と首の筋群の過剰な筋緊張を抑制しやすくなる。実行者が立骨重心制御をするにしても,重鎮基底制動をするにしても,「体重を支持部位に預ける」と意図することは役立つものとなる。

更に,この意図は,実行者に「体重」や「重力による影響」を想起させる意図ともなる。実行者は自身に重力が働いていることを再認識していくことになる。一般的に重力の認識が欠落しやすい中で,重力こそが私達が対処するべき対象である。実行者が重力を認識していくことで,対象となる重力への適切な対処を実現しやすくなる。

実行者が「体重を支持部位に預ける」と意図して立骨重心制御と重鎮基底制動を実現していくことは,実行者が自身の体を「置物」のように考えて,体を有利な状態で支持面に乗せようとする処置といえる。実行者が「自身の体を置く」と意図していくことで,置物がそれ自体の重さによって紐やその他の支えの必要なく立つように,実行者は筋緊張の支えを必要最小限のものにして体位を維持できるようになる。有利意図の人は,「自身の体を置く」と意図していくようにする。このことを私は「プレイシング(Placing)」と呼び,クライアントにこの「体を置く」意図を持つように勧めている。

実行者が有利な姿勢や動作をすることとは,止まるべき体の部位を効率的に止めることと考えている。私達が体を止めるためには,絶対的に空間的位置が停止している床面や,それと接している強固な構造物に,体を接触させていく必要がある。そして,体を効率的に止めるには,これらの絶対的に停止しているものに「適切に置く」ように接していくことが求められるといえるだろう。

有利意図の人は様々な活動の中で,支持部位を考慮して,そこに自身の体重を預け,床面に自身を置くようにプレイシングしていくようにする。これによって立骨重心制御と重鎮基底制動を実現しやすくなる。つまり,体を止めやすくなり,有利な姿勢や動作を実現しやすくなる。



②頭に注意を向け,頭部制御と共に動く

有利な姿勢や動作を実現するにあたって,実行者が頭に注意を向けて,頭部制御と共に姿勢形成や動作を行っていく意図を持つことは重要な要素となる。その理由を挙げる。

一つ目は,頭の支え方というのは構造的に不安定であり,頭は動作の際に動かされやすく,実行者が頭を適切な状態から動かしてしまう場合は,首の筋緊張が強くなり,機能を制約するなど,実行者の姿勢や動作は不利なものとなるからである。

頭蓋骨で構成される頭は,成人で2kgから3kg程度の重量がある。そして,頭はその大きさに比べて支える面積が非常に小さい頸椎に乗る形で支えられている。また,頭蓋骨は最上段に位置づけられることから,頸椎としか接していない。他の体を支える骨は,上下の二面で隣接する骨と接して支えられる力を受けており,頭蓋骨は他の体を支える骨と比べても不安定であるといえる。こうしたことから,頭の支え方は構造的に不安定なものといえる。

そして,動作時には,筋の牽引や骨の作用力によって頭蓋骨にも動かされる力が働くことになる。発声時や過剰共縮制動の際には,腹筋群と首の筋群の筋緊張によって頭蓋骨は前下方に牽引される。私達が起こしてしまいやすい頭の動きが,頭部前方突出と頸椎伸展である。頸椎伸展は構造的に起こりやすいものである。

また,動作時には,頭に筋の牽引や骨の作用力以外の力も働く。頭は最上段に位置づけられていることから,頭は頭より下の体が動く際に慣性の力の影響を受けることになる。実行者が歩いたり,胴体を前方へ傾けるなど,前方へ体を移動させる際には,慣性の働きによって実行者の頭はその位置に留まろうとし,相対的に後方に牽引される力を受けることになる。

頭は不安定であるからこそ,実行者は動作の前から適切に頭部制御していくこと考えるべきである。有利意図の人は,頭部前方突出や頸椎伸展を起こさないように,頭に一定の注意を向けて,頭を適切に位置づけるように意図していくようにする。

二つ目は,実行者が頭を最高位置に位置づけて適切な向きにすることが,立骨重心制御の体位維持を実現する基本的な体への指示の一つとなるからである。目的端先導の考えを「体位維持という行為」に応用した場合,導くべき先導端は頭となり,実行者が頭を最高位置に導いて適切な向きにすることが持つべき意図となる。実行者は頭を導くことで,脊柱を立骨状態に導くことができ,背筋群の適度の働きを促すことができる。

立骨制御の仕方とは,「実行者が上に位置する骨の向き調節を行って,その下に連なる骨を立骨状態に導き,その状態で上の骨が下の骨に荷重をかけるようにすることで,下の骨ごと上の骨を止める」というものであることを前章までで述べた。最上部にある頭を導く制御は,特に上半身の立骨制御の要となる。

頭を導いて姿勢形成する意図は,「背すじを伸ばす」という姿勢形成の意図よりもよい。「背すじを伸ばす」「背中を真っすぐに」という意図で適切な状態に導ける人もいるだろうが,人によってはこの意図によって脊柱を過伸展させてしまったり,背筋群を過剰に筋緊張させてしまうだろう。なぜなら,脊柱や背中に注意を向けるような意図を実行者が持つ場合は,実行者は用いられる筋(背筋)や関節(脊柱の関節)に注意を向けていくことになり,筋緊張を過剰なものにしやすいからである。

三つ目は,頭には平衡感覚機能が存在することから,実行者が頭部位置を制御していくことで,平衡感覚を最適なものにできるからである。頭の両側の耳の奥には平衡感覚情報などを探知できる半規管があり,また頭に位置する目からも視覚情報として相対的な鉛直方向の情報を私達は得ている。神経生理の側面においても,頭部制御が私達の体位維持活動に関わる重要な要素であることがいえる。

以上が,実行者が,頭に注意を向け,頭部制御をしていくべき理由である。

有利意図の人は,頭に注意を向け,頭蓋骨の位置や向きを調節し,頭蓋骨を頸椎の上に立骨状態で乗せ続ける意図を持つのである。有利意図の人は,このような頭部制御と共に姿勢形成を行ったり,動いたりする意図を持つようにする。

「自身を置く」というプレイシングの意図について前述したが,有利意図の人は,適切な頭部制御の意図として「頭を置く」というプレイシングの意図を持つとよい。頭の重さと骨の反力を活かし,最小限の筋緊張で頭を支えていくことに役立つものとなる。

第5章その3につづく)
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