第7章 有利な動作の実現方法(その4)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




4. 体軸の動作(椅子から立つ/座る,歩行,体軸のひねり等)

ここでは膝と股関節を曲げて中腰になること,椅子から立つ・座る動作,歩行動作,体軸のひねりの動作など,体軸を動かす動作について有利意図の人が持つべき指示の仕方を説明する。有利意図の人が体軸の動作時に重鎮基底制動を実現し,目的端先導の意図で動作していくことは,腕や脚の動作時と変わりない。体軸を動かす動作のときには実行者の重心変位が大きくなるため,有利意図の人はこの基本的な意図に加え,重量バランスを脚を用いて積極的に適切なものとすることと,バルサルバ操作を採用しないように注意を向けるとよい。

膝と股関節を曲げて中腰姿勢になる動作

顔を洗う,掃除をする,床にある物を持ち上げる,テニスのサービスを待つなどの行為では,実行者は膝と股関節を曲げて中腰となる姿勢をとるだろう。有利意図の人は,中腰姿勢にする動きを,重鎮基底制動と目的端先導で実現するために,下記に示す意図をもつとよい。

ここでは,上半身の骨を立骨状態にする中腰姿勢への導き方を説明する。必ずしも上半身を立骨制御しなくてもよいのだが,立骨制御した方がより有利な状態となるため,その実現の仕方を示すことにする。有利意図の人は,これを実現できる感覚を持っておくとよいため,この中腰姿勢を導くことをエクササイズとして繰り返し行うとよい。実際の生活においては,必要や状況に応じて適度に上半身を屈曲させてもかまわない。図7−4(1)に導いた後の理想的な状態を示している。

図7ー4 中腰姿勢における重心乖離容認

図7ー4 中腰姿勢における重心乖離容認

指示の仕方:中腰姿勢になる動き(上半身立骨制御状態)
  • 足底全体に体重を預けて,足底に摩擦が生じていることを考える。
  • 足底が止まっていることを考え,殿部を後方に導きながら,頭と胴体の前面を前方に傾け,膝を曲げる。この際に,頭を上方向(脊柱の向く方向)に持ち上げながら,額を前下方に導くようにする。視界も下方を向くことを考慮するとよい。



実行者は体幹を動かす前にまずは重鎮基底制動を意図する。この動きにおける支持部位は足底であり,実行者は足底に体重を預け,足底が止まっていることを考えながら,体幹を動かすようにする。この動きにおいて実行者が意図すべき先導端は,「殿部」に加えて,「頭と胴体の前面」となる。実行者がここを先導端として設定して導くことで,上半身の骨を立骨状態のまま股関節を屈曲させる動きを促せる。実行者は,腹部まで含めて前方に傾ける意図を持たないと,いわゆる「腰を曲げる」動きである腰椎屈曲を起こしやすくなり,猫背の中腰姿勢になりやすい。また,頭を脊柱の向く方向に持ち上げながら,額を前下方に導き,視界も下方を向くことを考慮することで,頭部前方突出と頸椎伸展のパターンを回避しやすくなる。

有利意図の人が中腰になった状態の後に考えるべきことは,自身の重量バランスである。多くの人はこれを考慮せず,後方により多く重量を配分してしまうように考えている。こうした人は,体に後方に倒れる力のモーメントを生じさせて,それを前側の筋群の筋緊張を強くして支え,体位維持することになる(図7−4(2))。こうした人は中腰姿勢維持において,腹筋群や大腿四頭筋などの前側の筋群の筋緊張を過剰にし,さらにバルサルバ操作を採用しているかもしれない。

実行者が自身の重量バランスを適切なものにしていれば,実行者は脊柱起立筋といった本来働くべき背筋群の適度な働きを促す一方で,前側の筋群を過剰に動員せずに済み,バルサルバ操作に頼らずに自身を支えることができる。

このように,有利意図の人は体の左右ではなく,主には体の前後の重量バランスを考えるとよい。中腰姿勢での重量バランスに限らないが,私達は前後のバランスの方が不安定である。左右バランスは私達の構造が左右対称であり,左右の二脚で支えていることもあって,前後バランスよりは安定している。私達はこの不安定な前後バランスを考慮しなくなり,即席の筋緊張強化による支持に頼ってしまいやすい。

指示の仕方:中腰姿勢の維持
  • 体の前後のつり合いをとることを考え,足底全体に体重がかかるようにする。
  • 膝と股関節を曲げる中腰姿勢の場合には,頭を前方に,殿部を後方にして,体の重心が足の甲と脛が交わる辺りに落ちるように導く。実行者は頭や腕を足のつま先より前の空間に位置づけるようにする。その際に腕を吊り下げて胸骨上端部に腕の重さをかけるようにするとよい。膝や股関節を曲げる程度にもよるが,これは導いた後の状態の一つの目安となる。導いた後に,脛と足底全体に体重がかかる感覚を得るようにする。
  • 重心を適切に制御した平衡状態では,腹筋群や大腿四頭筋の筋緊張を緩和することができる。呼吸した時に腹部前面が動くかどうかを確認する。また,頭が胴体から独立していつでも動ける状態かを確認する。

有利意図の人は,バルサルバ操作を採用せずに動作するために,気道を開けた状態を維持するようにする。気道の喉の部分に蓋をしないように考えるとよい。そして,その感覚をつかむまでは息を吐きながら行うなど,息を止めないようにするのもよい。

中腰姿勢においてはいくつかの骨の傾斜があるものの,ここで述べたように足関節,膝関節,股関節を屈曲させる方法が,最も問題となりやすい負担が実行者に生じにくいものとなると考えている。

重心乖離容認の人は,この中腰姿勢になった時に,頭が前方に位置していて体が前に倒れそうな感覚を得るかもしれない。それは,その人が今まで前方に倒れるリスクというのを避けるために,後方に少し体を傾け,その状態を筋緊張で支えてきた感覚に適正感を得ているからである。こうした人は是正する際に不安定さを感じてしまうかもしれない。是正するにあたって実行者が重視すべきことは,足底全体に支持面との圧力を十分に感じられるかである。この実行者が足底で感じる圧力の感覚情報というのは,信頼できる客観的な情報となりうる。踵の方に体重が偏っている,足底に圧力をあまり感じない,左右で均等でない,など足底の圧力の感覚情報を得て,それを評価していくことは,実行者が適切な重心感覚を得ていくことに役立つだろう。

この中腰姿勢とその維持の仕方は,本来用いるべき筋の働きを適度に促して,最小限の筋緊張で体位維持していく仕方であり,効率的な中腰姿勢維持の仕方となると考えている。そして,これはアレクサンダー・テクニークで「モンキー」と呼ぶエクササイズとなる。

実行者は,このモンキーをエクササイズとして行うことによって,様々な体軸の動きの際に自身に働く重力を再認識していくようになり,自身の重量バランスを考慮したり,体の前側にも体重がかかる感覚を得たり,本来働くべき筋群を適切に用いながら骨を立てる感覚を得るようになる。また,頭を足のつま先よりも前に位置づける感覚にも慣れることができ,重心乖離容認の人が感じやすい「前に倒れそう」に感じる恐れを解消していくことにも役立つ。モンキーは,実行者が立骨重心制御を身につけるにあたって有効なエクササイズとなる。

ここでは,ある程度の角度で膝と股関節を曲げる動きを想定したが,実行者が行う行為によって曲げる程度は変わってよい。膝を曲げずに行ってもよい。この場合は腰椎を屈曲させやすく,脊柱を立骨状態にはしにくいだろう。負担を少し課すことになる。膝を曲げない場合においても,実行者は足底の圧力感覚を用いて体の重量の前後のつり合いを考えて,頭や殿部を制御し,腹筋群や大腿四頭筋の筋緊張を緩和できる位置まで導くようにするとよい。実行者は,その際に体に重さがあることを思い出し,頭の重さや殿部の重さなどを考える。その体の前後の重さを足底上でつり合わせるようにし,「体重を足底に落とす」と考えるとよい。

第7章その5につづく)
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