第8章 有利な呼吸,発声の実現方法(その1)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声
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呼吸は,私達の意図を必要とせず自律的に行われるものでもある。放っておいても呼吸は行われるため,私達は呼吸のことをあまり考えなくなる。体位維持活動と同じである。注意しなくとも達成できるために,私達は呼吸の仕方を自身の習慣に任せる形になる。どうやって呼吸をするべきか,明確な指針を持っている人は多くはないだろう。

ある人が呼吸の仕方に注意を向けないでいても,その人の呼吸の仕方が適切なものであれば特に問題はない。しかし,それが不利なものであれば,その人の体の問題となる。特に即席保全の人は,呼吸を浅くしてしまいやすいことは説明した。こうした人は浅い呼吸を定着させているだろう。

呼吸は,知ってのとおり酸素の摂取と二酸化炭素の排出という生体維持の基盤となる機能である。ある人が呼吸を浅くしているなど呼吸を適切にしていない場合は,その人は,体が疲れやすかったり,鬱屈するような気分が続いたり,心理的に落ち着きにくかったりするなど,全体的な不調を招きやすいと考えている。また,私達は呼吸を発声の活動に用いており,呼吸の仕方は発声のパフォーマンスにも影響する。管楽器演奏も,呼吸の仕方がそのパフォーマンスに関係する活動である。

自身の体の状態や,発声の声や管楽器演奏の音の出方から,自身の呼吸の仕方が有利ではないことに気づく人もいるだろう。その人はこうした際に,呼吸の仕方に変化を与えようとして意識的に呼吸をしていくことになる。しかし,その時にどのようにすれば有利なものにできるのかわからない人もいるだろう。

世の中には様々な呼吸法がある。腹式呼吸,胸式呼吸,丹田呼吸,ヨガの呼吸法などである。腹式呼吸,胸式呼吸は言葉としては一般的ではあるが,定義が明確になっていないように思われる。丹田呼吸は科学的に確認できていない「気」の概念が含まれるため,科学的根拠はわからないものの,腹部を意識することから腹式呼吸に類似するものとなるだろう。ヨガにも呼吸法があるが,実行者はヨガの時だけ意識しているかもしれない。呼吸法の中には,何秒吸って何秒吐いてなど,実行者が呼吸のみを意識的に行うようにするものもある。この方法は,実行者が呼吸だけを行うのであればよいが,それ以外の活動をしていく際に実行者は応用しづらい,または応用しないだろう。

私がここで提案する呼吸の仕方も,様々な呼吸法の中の一つになるが,それは実行者が活動や実生活の中で有利な呼吸を行えるようになることを目的とした呼吸の仕方である。私達が自身の呼吸に気づくとき,私達の行う呼吸の仕方は自律的な呼吸の仕方ではなく,意識的に制御した呼吸の仕方となるだろう。その際に有利な呼吸を行えるようにするには,私達は何を意図すればよいか。私達が呼吸を意識していない時にも,呼吸を有利に行うようにするにはどうすればよいか。また,発声や管楽器演奏などで努力的な呼吸をする際に,それを有利なものにするにはどのようにすればよいか。こういったものを考えた呼吸の仕方である。

私が提案する呼吸の仕方には,他の呼吸法と重なる要素もあるが,独自の要素もある。独自の要素は,呼吸を体位維持活動と関係づけていることである。呼吸と体位維持活動には深い結びつきがあり,この結びつきを考えることで私達は有利な呼吸を実現できると考えている。

実際の生活やパフォーマンス活動の中で役立つ呼吸の仕方について,基本的なことをここで示したい。有利意図の人は,動きの意図と同様に,立骨重心制御,重鎮基底制動,目的端先導で呼吸を行うようにする。これに加えて,呼吸や発声という活動に固有の制動先があり,それも意図するようにする。これらの具体的な意図の持ち方についてここで説明する。



目次

1. 呼吸活動の全般にいえること

立骨重心制御と重鎮基底制動の元に呼吸する

実行者は,立骨重心制御と重鎮基底制動と共に呼吸していくことで,以下に述べる次のメリットを得る。

呼吸筋群と制動の筋群の筋緊張を最小限に留められる

呼吸活動は,横隔膜の挙上と下降,肋骨の挙上と下降,腹筋群収縮と伸張という内的な動きを伴う。この内的な動きにも筋の牽引や関節を通じた作用力が生じ,特に筋付着部であり,関節する脊柱や骨盤にこれらの力が働く。この力を受けて実行者が脊柱や骨盤を動かしてしまう場合は,実行者は横隔膜や肋間筋,腹筋群などの呼吸筋群の働きの効率を悪化させることになり,呼吸を有利なものにできなくなると考えている。

この脊柱や骨盤の安定を最小限の筋緊張で実行者が実現する制御が,立骨重心制御であり,重鎮基底制動である。

実行者は,立骨重心制御によって背筋群の働きを促し,自身の重量の荷重と骨の反力を体を支える骨の安定化に用いて,脊柱や骨盤といった体を支える骨を止めていく。また,実行者は重鎮基底制動を採用して「体重を支持部位に預ける」「体重を支持部位に落とす」ように導けば,呼吸時の動きの中で自身の重量の荷重を自身の安定化に活かしやすくなる。

実行者は体を支える骨を安定させることで,呼吸筋群と制動の筋群の目的仕事転化効率を悪化させずに済み,最小限の筋緊張で呼吸活動を実現できるようになる。

腹筋群の呼吸活動のための自由度を最大限確保できる

実行者は立骨重心制御によって背筋群の働きを促し,上半身を起こす主動的な役割として背筋群を働かせる状態を導くことができる。このため,実行者は前側の腹筋群の動員を極力抑えられる。また,実行者は発声などの努力呼吸時のための制動として重鎮基底制動を採用して,過剰共縮制動を抑制していれば,腹筋群の体位維持活動への動員を最小限に抑えられる。実行者はこれによって,腹筋群を十分に弛緩できる状態とすることができる。つまり,腹筋群の呼吸活動のための自由度を最大限に確保している状態とすることができる。

肋骨の動きを制約しない

骨傾斜容認の人が上位胸椎を屈曲させて脊柱の弯曲を増強していた場合は,上位肋骨の集束とそれらの運動の振幅減少をもたらし,その人は換気の運動を制約することとなる。実行者は,立骨重心制御で脊柱を立骨状態とすることで,この肋骨運動の制約を回避できる。

腹筋群収縮圧力を横隔膜に伝えやすい

実行者は自身を立骨重心制御状態に導くことで,腰椎に適度な前弯がある状態に導くことができる。この結果,その腰椎を壁として腹筋群収縮の圧力を腹腔上方に集中させやすく,横隔膜に伝えやすくできる。また,胸郭前傾を起こさずに,横隔膜下面が背側を向かないように維持できることから,腹筋群収縮圧力を横隔膜に伝えやすい状態を維持できる。

実行者が立骨重心制御と重鎮基底制動を実現して呼吸をすれば,呼吸活動において自らが生み出しかねない制約を最小限のものにすることができる。呼吸を浅くさせず,呼息時に時間的に長く圧力を伝え続けられたり,強い圧力を伝えられるようになるだろう。吸気量も増やすことができるようになるだろう。そして,その呼吸を軽く感じられるだろう。

第8章その2につづく)
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