有利な体の使い方:序論その1

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




これから、私の論考「有利な体の使い方ー姿勢・動作・発声・呼吸ー」をこのブログを通じてご紹介していこうと思います。

以前に書いていたもので、身技レッスンの指導者クラスに在籍された方には配布していましたが、一般への公表はこれが初めてです。アレクサンダーテクニークの新解釈です。けっこう長いので、少しずつ出していきます。【論考】有利な体の使い方カテゴリーの中で、投稿していきます。

医療関係者や施術家、スポーツトレーナーといったプロフェッショナルの方々にも誤解なく伝えたいので、やや硬い文章になっています。素人論文と考えてください。こうした方々に加え、AT指導者の方々、パフォーマーやアスリートでさらに体の使い方を探求していらっしゃる方々に、参考にしてもらえればと思います。

引き続き、ブログでは一般の方にわかりやすく伝えていくことも並行してやっていきますので。こちらは別カテゴリの方で。

では、まず序論から。序論その1です。

有利な体の使い方(姿勢・動作・呼吸・発声)
〜アレクサンダーテクニーク新解釈とその応用〜

青木紀和 著

序論

「体に余計な力が入っている」とは,よく聞く表現である。ここでいう「力」とは,体の筋の収縮,または筋の緊張の程度といえるだろう。人からこのように指摘されて,すぐに余計な筋緊張の生じていない状態に導ける人もいる。その一方で,人からこのように指摘されても自分では余計な筋緊張の生じていない状態に導くことができない人もいる。「体から余計な力が抜けない」と訴える人である。

私はここで様々な主張を述べるが,それをまとめれば「体に生じる余計な筋緊張とは何か,その影響とはどういうものか,そして余計な筋緊張を除くための方法はどういうものか」に答えるものとなる。

体に余計な筋緊張を加えないことが望ましいことであり,それによって姿勢,動作,呼吸,発声を効率的で負担が少ない有利なものにすることができる。そして,こうした体の動作や機能を基にする演奏や歌唱,ダンス,スポーツ,武道,コミュニケーションといった活動のパフォーマンスを向上させることができる。また,仕事や家事等における体の負担を軽減でき,体の故障や,痛みの改善,予防を通じて健康状態を向上させることができると考えている。

私達が最小限の筋緊張で目的の活動を実現できる「有利な体の使い方」とその根拠を,ここで述べる。これには,体の支え方である体位維持の仕方が関わり,注意の向け方,意識の仕方も関わるものとなる。

アレクサンダー・テクニークの根拠探求の結果

私はアレクサンダー・テクニーク(Alexander Technique)という身体法を基にした独自の方法論で,クライアントに姿勢や動作の仕方,体または心理面の緊張緩和の仕方などを指導している。アレクサンダー・テクニーク(以下AT)とは,オーストラリア人のFrederick Matthias Alexander(1869-1955年)が20世紀初頭に創始した体の使い方の方法である。

ATにおける特徴的な考えとしては,私達は,様々な活動を行う際に筋緊張を過剰なものにしていたり,体の機能を制約するような反応を癖として定着させやすい,というものである。そして,ATはその癖の是正に役立つ方法論であると指導者の間では考えられている。

レッスンでは,指導者が手でクライアントに触れながら,クライアントの姿勢や動作を良好と考える状態に導いて指導する。ATの実践者は,体の故障や痛みの改善,そしてパフォーマンスの向上や心理的な緊張の緩和という効果を期待している。先進諸国には民間の指導者資格養成機関があり,私はこうした機関で指導者としての訓練を受けた一人である。

ATは,いくつかの分野で問題を抱える人々に良好な効果をもたらしてくれることがわかっている。

P. Littleらによる慢性腰痛患者を対象とした無作為比較検証では,ATのレッスンを受けたグループの方が,通常の整形外科治療のみ,マッサージや体操をするグループよりも良好な状態に改善し,それが1年後も継続したことが確認されている[1]。また,J. H. Austinらの呼吸機能について健康的な成人を対象とした無作為比較検証では,ATの20回のレッスンを受けた健康的な成人の呼吸機能が,何も受けなかったコントロール群に比べて改善したことが確認されている[2] 。C. Stallibrassらのパーキンソン病患者を対象とした無作為比較検証では,ATの24回のレッスンを受けた対象群の自己状態評価が改善し,それが6ヶ月後も維持されたことが確認されている[3]

また,生理学者のチャールズ・シェリントン,人類学者のレイモンド・ダート,動物行動学者のニコラス・ティンバーゲン,教育哲学者のジョン・デューイなどのその分野では著名な研究者らも,ATを推奨している。ニコラス・ティンバーゲンは,自身の生理学医学部門ノーベル賞受賞時のスピーチ(1973年)で,個人的なATの経験の話をし,ATをそこで推薦した。

ATは,欧米の先進諸国では音楽家や俳優を養成する専門的な高等教育機関の一部では,学ぶべき体の使い方の技術として推奨されている。ATは,こうしたステージパフォーマーからパフォーマンス向上に役立つ技術として信頼を得てきたといえるだろう。

しかし,「何故,ATに効果があるのか」にあたるATの合理的な根拠については,今に至るまで明確になっていない。その主たるものが「プライマリー・コントロール」と呼ぶ独自の制御であり,実践者が「頭と脊柱の自由な関係」「首が自由な状態」「頭・首・胴体の適切な関係」「頭を前に上に導く」などの体への指示で行う制御である。実践者がこの制御によって理想的とする状態を実現することで,声を出す行為だったり,楽器演奏,姿勢,歩くこと,などを楽に感じるようになったり,よりよいパフォーマンスを実現できるようになったりすると,指導者の間では考えられている。レッスンで指導者がクライアントをこの理想状態に導けば,クライアントに実際に良好な反応は起こりやすい。しかし,このことの合理的な根拠についてはわかっていない。

AT指導者によるクライアントに対する説明としては「私達は,驚愕反応または闘争・逃走反応などによって首に余計な筋緊張を生じさせやすく,首を引っ込めるように頭を押し下げてしまいやすい。しかし,私達は頭を前に上にして姿勢を理想のポジションに導き,首の筋緊張をやめるようにすると,姿勢や動作を楽にできたり,よりよく機能を活かせるようになる」というものが一般的なものだろう。しかし,「なぜ,頭を前に上にして,首の筋緊張をやめたら,姿勢や動作が良好なものになるのか」については,明確な理由は示されていない。また,「驚愕反応または闘争・逃走反応が全てを説明する原因となるのか」はわかっていない。こうした反応が起こっていないような時にも,首の筋緊張を過剰にしてしまう人もいるからである。

これを説明する状況証拠に相当する研究や見解は,いくつかある[4]。しかし,合理的な根拠は見出されていない。少なくとも現在の医学や運動学分野の研究者の納得を得られるものは見出されていないといえる。このため,医療や教育,スポーツ分野で積極的にATは導入されておらず,ATは一般的な体の使い方として人々に推奨されるものにはなっていないと考えている。ATは,音楽や演技といった表現芸術の分野におけるパフォーマンス向上のための技術,または民間で行われる代替医療の一つに留まっている。

テクニックの根拠が明確になっておらず,目指すべき状態も「頭を前に上に」などであって具体性にかけるものであるため,AT習得を目指す人は言葉で表現できない体の感覚に多くを頼ることになる。こうしたこともあって,クライアントには,ATの理想的な状態を体得するまでに,一定の回数(20回以上の個人レッスン)や期間のレッスン経験が求められる。これは,指導者になるにあたってもいえることである。指導資格希望者には,指導者養成機関で1600時間の講習を受けることが課される。1600時間の講習はAT界では一般的な基準となっており,指導資格希望者は指導者になるために3年かそれ以上の時間を要することになる。

ATは,このように経験的な考えを基にして,約100年の間,体の使い方の方法として伝承されてきたものである。

私は,クライアントを指導していく中で「なぜ,ATで良好な効果を得られるのか」を日々考え続けてきた。レッスンを通じて様々な人の傾向をみて,なぜその症状が生じるのか,何をするとよりよい動きになったり,楽に感じるようになるのかを考察してきた。私の探求は,「答えはわかっているが,その理由がわからない」という根拠を解明していくものであった。

この結果,ATの合理的根拠にあたる仮説を見出すことができた。この論考は,これをまとめたものである。私が見出したこととは,私達が体の負担を少なくし,よりよいパフォーマンスを実現するにあたっては,私達の体位維持の仕方が関係し,良好な姿勢や動作の基となる有利な体位維持の仕方があるということである。また,その実現には,特定の体への意識の仕方,注意の向け方が求められることである。そして,実行者がATを実践することによって,この有利な体位維持の状態を導きやすいということである。

私がこのことを見出した結果,同時にわかったことがある。それは,既存のATの方法だけでは理想状態の実現にあたって不足する部分があることである。このため,現在の私の指導の仕方は,既存のATの指導の仕方とはやや異なっている。しかし,同様の効果を与えられる中で,より短期間でクライアントが自身で良好な状態を導けるように感じている。それは,何をすれば理想的な状態になれるかを,クライアントがより具体的に把握していくことになるからと考えている。

私の探求はATの根拠解明に端を発しているものの,その背景にあった探求目的は「よりよい体の使い方とは如何なるものか」である。本論考の主眼は,「有利な体の使い方とはどういうものであり,私達はどのようにしてそれを実現していくのか」とした。ATがなぜ効果的なテクニックとなるのかを主眼には置いていない。既存のATが有効なものとなる根拠については,後述の章で整理して示します。そして,同時に既存のATが補うべき点についても示していきます。

その2につづく)

脚注

[1] Little P, Lewith G, Webley F, et al. : Randomised controlled trial of Alexander technique lessons, exercise, and massage for chronic and recurrent back pain. Br Med J, 2008;337:a884.
[2] Austin JH, Ausubel P: Enhanced respiratory muscular function in normal adults after lessons in proprioceptive musculoskeletal education without exercises. Chest, 1992 Aug;102(2): 486-90.
[3] Stallibrass C, Sissons P, Chalmers C: Randomized controlled trial of the Alexander Technique for idiopathic Perkinson’s disease. Clin Rehabil, 2002 Jul;16(7): 695-708.
[4] 「なぜ,頭を前に上にして,首の筋緊張をやめたら良好な状態になるのか」についていえば,一つの状況証拠にあたるものがある。それは,生理学者のルドルフ・マグヌスが1920年代に発表した動物実験の結果であり,数種の動物でそれらの頭部の使い方を干渉した場合,姿勢や四肢の使い方に変化が起こるというものである。このことをヒトにあてはめれば,頭と胴体,または頭と脊柱の関係が姿勢や四肢の体の使い方に影響を及ぼすとみることができる。これは,創始者のF.M.Alexanderが,ATが効果的である理由として引用した実験結果である。このため多くの指導者は,このことを前提にしているものの,これは動物実験の結果であることと,一つの状況証拠に留まるものである。「なぜ,頭部の使い方を干渉した場合に,姿勢や四肢の使い方に変化が起こるのか」の機序を説明しているものではない。







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