こういうのよく聞きます。
- 「腹筋で体を引き上げて、いい姿勢を作る」
- 「お腹をしめて腹筋を鍛えて、ぽっこりお腹を是正する」
- 「なにをするにも丹田に力を込めてやる」
「腹に力を入れる」系の思いです。
それで、けっこう多くの人が、腹筋を過剰に緊張させてしまっている。
よくこういうアドバイスを雑誌や本、テレビ番組なんかでもされているのを見聞きします。そのたびに「いや、ちがうんだよなぁ」と思います。
はっきりいってまったく役立っていない。
で、無害だったらまだよかったけど、有害ですから。デメリットが大きいし、多岐にわたる。
なので、指摘せずにはおれません。
「腹に力を入れる」の誤解を解いていきましょう!
で、本来のあるべき姿としては、この逆。
「腹筋をできるだけ弛めよう」です。
腹に力を入れるの誤解
「腹筋で体を引き上げて、いい姿勢を作る」
これは完全なる誤解。
腹筋を緊張させる、つまり収縮させるということは、上体を前方に曲げる力を働かせることになる。筋肉は収縮することで牽引する力となりますから。
つまり、引き上げるというよりは、むしろ体を前に倒す方向に引き下げている役割です。
「いい姿勢を作る」という場合は、主動している筋肉は背筋群の方です。
「お腹をしめて腹筋を鍛えて、ぽっこりお腹を是正する」
確かに腹筋の収縮を続けたら、腹筋は多少は鍛えられるかと思います。
ただ、増強するというよりは、硬くなる感じでしょうか。それほど筋量は増えないでしょうね。
狙いは代謝をあげて、脂肪を燃焼させたいということかと思います。
代謝をあげるためには筋量を増やした方がいいので、普通によくある腹筋トレーニングをした方がいいですね。
狙いが、代謝をあげるんじゃなく、直接的にお腹を引っ込めるという人もいるかもしれません。確かに凹みます。でも、それって本来の問題解決ではないですよね。
ぽっこりお腹の問題には、二つ原因があって、一つはお腹周りの脂肪。もう一つは、骨盤が後傾しているという理由もあります。
骨盤が後傾すると、下腹部がぽっこり前に出てしまいます。下の図のB’とD’のような感じです。
骨盤の後傾は一瞬で是正できることです。(ただ、適切な骨盤の立たせ方を知らないと、無理な感じになりやすいですが。)
で、腹筋を緊張させると、それは骨盤を後傾させる力になってしまうんですよね。で、骨盤を後傾させて下腹部をぽっこりさせてしまうとなると、ミイラ獲りがミイラになっちゃう悲しいパターンです。
腹筋の緊張でお腹を引っ込ませるのは、写真撮影時などの短時間の処置にしてもらう方がいいのかと。
「なにをするにも丹田に力を込めてやる」
丹田はおへそ辺りにあるものとされています。そこに「力を込めて」となったら、それは腹筋を収縮させることになる。
しかし、そもそも丹田は、力を込めるところではありません。
丹田というのは、中国の道教に由来する「気」の考え方からくるもので、下腹部にあり、気を集積するところ、のようです。
気を集めるところであって、力を込めるところじゃありませんから。
「丹田を鍛える」という言い方もあるなかで、「気」が普通の人ではわかりにくいものだから、確実に感じられる筋緊張に差し替えられてしまったんでしょうね。
ということで、これらは誤解なんです。なので、腹筋を緊張させても、こうした効果は残念ながら得られないんです。
みんな腹筋を過剰に緊張させている
上のような思いを持っている人は、意識的に腹筋緊張を入れている人ですが、こういう思いを持っていない人も含めて、みんな腹筋の緊張を過剰なものにしているんです。
レッスンにくるクライアントはみんなそうですし、私は特殊技術を持っていて、人の動きをみるだけでどこに筋緊張が生じていて、それが過剰なのかどうかがわかるんですよね。これは職業訓練のおかげですが。
そうやって周りをみれば、かなり多くの人が腹筋を過剰に緊張させているのがわかります。(残念ながら、客観的な情報はないんです。。)
多分、漢方医や鍼灸の施術者なら、このことを知っているのではないかと思います。お腹を触診しますから。こうした方から聞いたことがあります。
現代人はみんなお腹が硬い
触診されたことがある方は、お腹が硬いと言われたことがあるんじゃないですか。
その腹筋の過剰緊張にみんな気づいていない。。
レッスンで、はじめてそのことに気づきますからね。
ちなみに、私が「過剰ですよ」と言ったことで気づくのではなく、本人が体験を得て「あ、ほんとだ」と納得してもらえる、ということです。
どういうことかというと、より腹筋の緊張を抜いた状態で同じ動作ができることをレッスンで体験するからです。その体験があって、はじめてそれまでの緊張が過剰であったと評価できるわけです。
筋緊張の度合いが過剰かどうかは自分ではわかりにくい
腹筋に限らず、自分の加えている筋緊張の程度が過剰、つまり必要以上な程度なのかどうかを「自分で」知ることは難しいんです。ほとんどの人はわからないでしょう。
質問です。「今この瞬間の、あなたの肩の緊張が過剰なのかどうか評価できますか?」
コリは感じられるかもしれませんが、筋肉の緊張度合が過剰かどうかはわかりませんよね。周りの人をみたところで、その人の緊張の感覚を得ることはできないし、その人の緊張の程度と比較することは容易にはできませんよね。
だからこそ、アレクサンダーテクニークのレッスンがあるんですね。
ちなみに私のレッスンを受けることで、過剰かどうかがわかるようになります。もちろん、自分で。
どうして腹筋を過剰に緊張させているのか?
本題に戻っていきましょう。
私たちは起きているときは体を支えています。当たり前のことですが、これは、筋肉を働かせて体が倒れないように支えている活動をしている、ということです。
その体の支え方が実は過剰なものになりやすいのです。つまり、もっと筋肉の収縮程度を緩めても体を支えることができるのですが、その必要程度を上回る程度まで筋収縮を進ませているということです。「体の支えすぎ状態」と呼んでいます。
腹筋も上体の胸郭を支える役割の一部を担っています。そのため、「体の支えすぎ状態」になると、背筋などとともに腹筋を過剰に緊張させていやすいのです。
それで、さっき書いたように、これにはなかなか気づけない。このため、この体の支えすぎ状態が癖になって、腹筋の過剰緊張が続くことになる。
さらに「腹筋をしめて上体を起こして」みたいになってくると、追い討ちをかけてしまうでしょうね。
で、腹筋の過剰緊張が無害だったらまだいいですが、これが有害なんですよ。
その代表的な悪影響が、首こり・肩こり・腰痛です。ご存知、慢性痛3兄弟。
その2につづく
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