第3章 動作時に陥りやすい体位維持の仕方(その5)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




4. 過剰共縮制動のその他の特徴

過剰共縮制動の起こるタイミング

過剰共縮制動による腹筋群と首の筋群の筋緊張は,動作時の体の制動と重心変位への対処のために採用されるもので,動作の際には目的動作よりも一瞬前に行われやすい。つまり,腕を動かす動作をする際には,実行者は腕の動きを起こす一瞬前に,腹筋群と首の筋群の筋緊張を強くしてから,腕を動かすことになる。制動が行われることで,目的動作に関与する骨が動くための反力を得るからである。

過剰共縮制動が目的動作の一瞬前に行われることは,観察できる。過剰共縮制動を採用している人は,目的の動作が行われる一瞬前から,腹筋群と首の筋群の筋緊張が強くなる。この際に実行者が骨傾斜容認でいる場合には,やはり動作が行われる一瞬前に,骨盤スライド後傾や胸郭前傾(腰椎・胸椎の屈曲),頭部前方突出と頸椎伸展といった動きが行われやすい。この実行者の動きは微細なものではあるが,筋緊張が強くなったことも含めて視認できるものである。

股関節外旋の筋群の筋緊張も含む

骨傾斜容認の実行者が立位で動作し,過剰共縮制動をする場合は,骨盤の制動のために股関節周りの筋群の筋緊張も強くすることになる。特に,梨状筋などの股関節外旋の筋群の筋緊張は顕著なものとなる。前章の上肢動作や発声の例でも述べたが,骨盤スライド後傾が起こる際は,股関節外旋の動きが起こる。股関節外旋の動きがある中で,股関節外旋の筋群が骨盤を止めるにあたって拮抗の役割で働くことになる。このため股関節外旋の筋群は,付着部が近づいて短縮した状態での張力を発揮することになり,筋緊張が過剰なものとなりやすい。

過剰共縮制動による体への負担,動作や機能への影響

実行者が過剰共縮制動を行った時の体への負担,動作や機能への影響を以下にまとめる。これらは過剰共縮制動の不利な点となる。

腹筋群の筋緊張によって腰椎や胸椎は屈曲方向に牽引され,それに拮抗するために脊柱背側の多裂筋や棘間筋といった比較的短い筋群も,急激に引張されるため筋膜や筋組織への負担は大きくなる。脊柱と骨盤の靭帯も伸張されやすく,負担が大きくなる。また,腰椎や胸椎の椎間板には曲げの変形が生じる。こうした負担が過度であれば腰痛の要因となる。これらは骨傾斜容認でいることの不利な点と同じだが,過剰共縮制動の際は筋緊張がより強いものとなるため,実行者にかかる負担の度合いはより大きいものになる。

首の筋群の筋緊張により,実行者の首の筋群負担が大きくなる。首の背側の筋群負担により,実行者は首の背側部に首のこりや痛みを感じやすい。

体全体の筋緊張が強くなることから,実行者の体は全体的に固くなる。このため,実行者の動きは,「固く」見えるものとなる。

動作時に腹筋群が強く筋緊張する状態が続くことから,呼吸が制約される。実行者は息を十分に吐ききらない状態となっている。実行者の呼吸は,浅い呼吸になりやすい。実行者が,バルサルバ操作を動員している場合では,腹筋群の筋緊張と共に声帯を閉鎖することになり,実行者は息をつめた状態となる。

過剰共縮制動は,こうした代償を伴いやすいものである。過剰共縮制動の腹筋群と首の筋群の筋緊張は,余計な体の筋緊張である。演奏やスポーツの指導者から,動作時に「体に余計な力が入っている」と言われる人がいるが,その余計な力の正体が,過剰共縮制動の筋緊張であると考えている。より具体的な動作やパフォーマンスへの影響は次章で述べる。



腕の過剰共縮制動

ここまでの過剰共縮制動は,実行者が頭蓋骨や脊柱を固定するために腹筋群や首の筋群の筋緊張を強めるものであった。一定の割合の人は,腕を使う際に,この過剰共縮制動と同時に「腕の過剰共縮制動」も行っていると考えている。腕の過剰共縮制動とは,実行者が手や腕を動かす際に,肩から手首までの筋緊張を過剰なものにして,手首や肘や肩の関節を動かないようにする制動の対処のことである。

前章で上肢の動作を考察した。そこでは,実行者が腕を動かす際に,動かす骨を目的通りに動かすにあたって,その骨に十分な反力を返す必要があり,そのためにその手前までの関節を適度に固定するように骨を制動する必要がある,ということを考察した。これは,実行者が筋収縮を用いて行うものである。腕の過剰共縮制動は,この筋緊張の度合いが過剰な制動の仕方となる。

筋緊張が過剰なものになる理由は,体の過剰共縮制動と同様に,実行者が鎖骨を動かして上肢の骨の相対的関係を崩したり,胸骨や体を支える骨を動かしたりしてしまうことに加え,腕の動作を速い速度で行ってしまうことである。一定の割合の人が腕の過剰共縮制動を行ってしまう理由も同じである。一定の割合の人が,こうした腕の骨を含めた骨傾斜を容認し,速い速度で行ってしまうからである。

実行者が腕の過剰共縮制動を行う場合は,腕の筋群だけでなく,腕と体を支える骨とをつなぐ首や肩甲骨周り,腋にある筋群の筋緊張も強くなる。僧帽筋,肩甲挙筋,菱形筋,前鋸筋,大胸筋,小胸筋などの筋緊張が強くなる。特に,僧帽筋や肩甲挙筋,菱形筋の筋緊張は顕著なものとなる。これらは鎖骨が動いた際に,短縮した状態で張力を発揮することになるからである。このため,首の背側から肩甲骨の辺りは特に筋緊張が顕著なものとなる。

腕の過剰共縮制動も体の過剰共縮制動と同様に,実行者が無思慮に行うものであり,不利な対処の仕方である。私達は,多くの場合は腕の過剰共縮制動を採用しなくとも,上肢の動作を達成できる。一般的な生活においては,それを採用する機会は限りなく少なくできる。

私達が文章を書くなど字を書く際には,体の過剰共縮制動に加えて,腕の過剰共縮制動を採用しやすい。実行者がそれを採用した場合は,手首や肘,肩関節を固めて,腕全体を曲がっている硬いシャフトとして,その硬くしたシャフト全体を動かすような動かし方となる。

しかし,字を書く行為は,実行者がここまで腕や首,肩甲骨周りを固くしなくとも実現できる行為である。実行者は,骨傾斜容認せずに立骨重心制御の態度を持ち,腕の立骨制御状態を維持し,速度を上げず,筆圧も過剰に強くしなければ,腕の過剰共縮制動をせずとも字を書くことができる。この可能性があるにもかかわらず,実行者が書く速度を上げてしまったり,丁寧に書こうとして筆圧を強くしてしまうなどから,その制動の仕方が過剰な対処となってしまう。

これと同じように,タイピング,人と話す際の手振り,家事や炊事,工場ラインにおける組立や仕分けなどの手作業などの際にも,一定の割合の人は腕の過剰共縮制動を採用していると考えている。

腕を使う行為というのは,反復動作で行われるものが多い。また,一定時間継続するものが多い。こうした行為は,長期的に日々繰り返されることとなるだろう。実行者が,このような行為に必要のない腕の過剰共縮制動を行っている場合は,実行者に負担が蓄積されることになる。そして,実行者の体の問題として顕在化することもある。その代表的なものが「肩こり」である。また,実行者が腕の過剰共縮制動と体の過剰共縮制動を採用して同じ行為を繰り返し,それを長期間継続した場合には,組織への負担の蓄積から,腱鞘炎や手根管症候群などの反復性緊張外傷(Repetitive strain injury:RSIs)や,胸郭出口症候群に至る可能性もあると考えている。

即席の対処となる

実行者は,過剰共縮制動によって体位維持を達成し,動作を達成することができる。過剰共縮制動は,汎用的で単純な対処であり,実行者の体位維持を達成させる便利な制御ともいえる。しかし,それが採用された場合は,実行者の動作は,筋緊張が過剰なものとなり,効率的な動作ではなくなる。また,実行者はこの採用によって体の機能に制約を与えることになる。実行者は体位維持を達成して動作も達成するが,その動作の効率や有利性は悪化することとなる。

実行者が過剰共縮制動を採用しているということは,結果的にいえば,実行者は動作の効率や体の負担といった有利性を重視しているのではなく,「目的さえ達成すればよい」という考えで動作を行っているといえるだろう。このようにみれば,過剰共縮制動は,実行者の即席の対処の仕方となるといえる。過剰共縮制動は,即席な対処の仕方という骨傾斜容認と重心乖離容認と共通する特徴を持つ制御となる。

第3章その6につづく)
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