第4章 即席保全の自動プログラムとその影響(その8)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




4. 即席保全の是正に向けて(つづき)

③筋緊張の感覚を得ようとする動作意図となる ⇒ 目的端先導を意図する

実行者が即席保全でいれば,動作の際に過剰共縮制動をすることになり,腹筋群や首の筋群の筋緊張を過剰にしていくことになる。また,腕の過剰共縮制動も行っていれば,肩や胸,腕全体の筋群の筋緊張を過剰にしていくことになる。つまり,動作時に体幹や体幹に近い筋群の筋緊張を過剰にしていくことになる。そして,実行者は,この過剰な筋緊張の感覚を得ていくことになる。

即席保全でいるこうした実行者が,過剰共縮制動を伴う動作を繰り返し行い,その経験を蓄積した場合には,その動作を行う際に腹筋群と首の筋群に加え,動作に関わる体幹に近い筋群に強い筋緊張を感じようとして動いていやすい。こうした筋群の強い筋緊張を感じることが,実行者の動作意図となっていやすい,ということである。こうした人は,特に「動作に関わる体幹に近い筋群」の筋緊張の感覚を得ようとする動作意図を無自覚に形成しやすいと考えている。私達は筋緊張の感覚を,筋組織内の筋紡錘や,骨との付着部に近く関節周辺に位置する腱紡錘で感じる。このため,この動作意図を持つ人は,筋や関節の辺りで筋緊張の感覚を得ようとしているだろう。この動作意図を実行者としての言葉で表現すれば,「筋や関節を使って動かす」という意図に近いものとなると考えている。

実行者が顔を左右に向けるように頭を動かす動作を例にとって,この動作意図を説明する。即席保全でいる実行者は,頭を動かすにあたって過剰共縮制動を採用するため,首の筋群の筋緊張を過剰なものとする。この経験を繰り返していく。そうすると,実行者は頭を動かすときに,首の筋群の筋緊張の感覚を得ようとしていやすい。これを,実行者は頭を動かす際の動作意図としていやすい。この動作意図は,「首の筋を使って動かす」「首で動かす」と表現できるようなもので,実行者が首の筋や関節で筋緊張の感覚を得ようとする動作意図である。この動作意図は過剰な筋緊張を伴うものであるため,実行者はこの動作意図でその動作を行えば,筋緊張を過剰にしていくことになる。

実際に頭を動かす際には首の筋群の筋収縮が求められることから,「首の筋を使う動作」という認識は間違えではない。ここで指摘していることは,「首の筋を使う」動作意図である。この過剰な筋緊張を用いるパターンを,実行者が「首の筋を使う」動作意図として無自覚に定着させてしまうことである。

また,「筋や関節を使って動かす」という動作意図を定着させている人は,強い力を発揮しようとした際に,動作に関わる筋の筋緊張が強く生じる感覚を得ようとしやすいと考えている。これは,「筋で力を発揮する」「筋に力を入れる」と表現できるような動作意図である。そして,実行者がこの動作意図で動作をする場合は,実行者はその動作を達成するために必要とされる程度以上の筋緊張を加えてしまいやすい。

例えば,ボールを腕で投げる動作でこの傾向を考える。この場合,実行者は肩周りの筋群を主に用いることになる。即席保全でいる人は,体幹部と腕の過剰共縮制動を行うことになり,肩周りの筋群の筋緊張を過剰にしていくことになる。この動作経験を蓄積していく。この場合,実行者は肩周りの筋緊張の感覚を得ようとして,ボールを投げていやすい。その動作意図は「肩を使って投げる」「肩周りの筋に力を入れる」「肩に力を入れる」というような意図である。

そして,この人がより速く,またはより遠くに投げようとする場合には,「肩に力を入れる」つもりで,肩周りでより強い筋緊張の感覚を得ようとして,ボールを投げるだろう。しかし,「肩に力を入れる」動作意図は,過剰な筋緊張を伴う効率の悪化する状態を誘発するものとなりやすく,実行者がこの動作意図で投球動作を行う場合は,その動作達成に必要以上の筋緊張を加えていくことになりやすい。つまり,目的の仕事となる「腕の動きを加速させること」に役立たない筋緊張を加えてしまいやすいということである。

実行者が「肩に力を入れる」動作意図で投球動作を行っても,投げるボールの速度を実際に上げることができ,より遠くに投げられるだろう。しかし,実行者はより少ない筋収縮で同じパフォーマンスを発揮できたのであり,その可能性をこの実行者は失うことになる。または,同じ筋収縮でより速くより遠くに投げられた可能性を失うことになる。こうした可能性に,実行者が自身で気づくことは難しい。結果的にあるレベルでより速く,より遠くに投げられていることから,実行者は筋に依存する自身の動作意図に疑問を持ちにくく,筋緊張を強くしていることを当然のことと認識しやすいだろう。

実行者のこの動作の達成にあたって,筋力だけが力の発揮に関わる要素ではない。効率という点で,体位維持の仕方も力の発揮に関わる要素となる。実行者は,「肩に力を入れる」ようにして動くことで,肩の筋緊張の感覚に無自覚ながらも多くの注意を向けてしまうことになり,体位維持の状態の感覚にはその注意を向けないだろう。体位維持の仕方は不利なものになりやすく,筋効率を悪化させる形で筋緊張を過剰にすることになる。

以上はボールを投げる動作を例に挙げて考えた。他の動作も含めていえば,即席保全でいる人は,「筋力だけが動作に関わる要素である」という認識を無自覚に得やすいように考えている。実際は,前章までで指摘したように,私達の動作達成や力の発揮において,筋力だけがそれに関わる要素ではなく,体位維持活動の違いも関わる。この「筋力だけが動作に関わる要素である」という無自覚な認識も,実行者の「筋を使って動かす」や「筋に力を入れる」というような動作意図の定着を促進しやすいものとなるだろう。
このように,実行者が即席保全の自動プログラムを定着させている場合は,実行者は「筋や関節を使って動かす」というような筋緊張の感覚を得ようとする動作意図を身につけていやすいと考えている。是正を目指す人は,この動作意図を適切なものに変えないと,即席保全の対処パターンを是正しにくい。是正を目指す人が,有利な体位維持の仕方でいて,効率的な動作を行える体位の状態でいたとしても,目的動作を行う際に実行者がこの身についた「筋を使う」動作意図で行ってしまえば,過剰な筋緊張を誘発してしまいやすいからである。このため,是正を目指す人は体位維持の仕方を有利なものに修正した上で,目的動作を行う動作意図も適切なものに是正する必要がある。

その適切な動作意図として,実行者が動作の際に「その動作を導く先導端となる部位を動かす」意図を持ち,「筋は用いられ,関節は動かされるもの」と考えていくという代案を勧める。例えば,電話の受話器を手で取りにいく動作でいえば,「手」が目的動作を導く先導端部位であり,その「手」を「受話器の方に動かす」と意図して動くのである。そして,手をそのように動かすときに,「筋は自動的に働き,関節は自動的に動かされる」ように考えるのである。この動作の意識の仕方で,実行者は動作を達成できる。そして,この動作の意図の仕方が,筋緊張の感覚を得ようとする動作意図の代案となる。

私達は動作時に,用いる筋や関節に注意を向け,筋緊張の感覚を得ようとする必要はない。肩や腕の筋に注意を向けて,「肩や腕の筋を使って受話器を取ろう」とする必要はないだろう。ただ「部位を動かそう」として動作すれば,その部位を動かすことが可能である。当たり前のようなことを述べているが,この当たり前のことを是正を目指す人は,改めて意図するのである。

実行者は動作を導く先導端部位を特定し,その「先導端部位を動かす」意図を持つ。その上で,筋緊張の感覚を得ようとする動作意図に伴う反応パターンを抑制するために,「筋は自動的に働き,関節は自動的に動く」ように考慮するのである。

この実行者の動作時の意識の仕方のことを「目的端先導の意図」とここでは呼ぶ。この意図には,実行者の目的動作を導く先導端部位を動かす意図に加えて,筋はそれを実現するように自動的に用いられ,関節も自動的に動かされるように考慮することも含まれる。実行者は,この目的端先導の意図を,立骨重心制御や重鎮基底制動を実現する意図と共に持つことで,過剰な筋緊張を伴わない動作を実現しやすくなると考えている。実行者は,この意図と共に動作する際にも,あるレベルの筋緊張の感覚を得るだろう。しかし,その筋緊張の感覚は,即席保全で「筋や関節を使って動かす」という動作意図で動作が行われた時の筋緊張の感覚とは異なるものとなる。是正を目指す人は,この経験を重ねることで,即席保全で陥りやすい動作意図から脱却しやすくなると考えている。これは実行者の注意や知覚の仕方を変えるものであり,前述した脳の認知過程の活性化にも貢献すると考えている。

先に挙げた顔を左右に向ける頭の動作でこの意図の仕方を述べる。実行者は,頭を先導端部位とし,それを左右に向ける意図を持って動かすのである。実際には首の筋がその働きを担い,頸椎で動くものの,それらは勝手に働いて動くものと実行者は考慮するのである。ボールを投げる動作でいえば,実行者はボールやボールを持つ手を先導端部位とし,それらを導く意図で投げる。そして,肩の筋や関節は勝手に必要程度働くと考慮するのである。実行者は,このように動作を意識していくことで,過剰な筋緊張を誘発するパターンを抑制することができる。

目的端先導の意図は,様々な動作や行為に応用できると考えている。自身の体全体の動作,道具を使う行為,発声や呼吸といった内的な活動などにも応用できる。これらを包括した「目的端先導の意図」の仕方は,次のものとなる。行為の際に,実行者が目的の動作や状態を導く先導端となる部位を決めて,その部位を動かす意図で動作を行い,筋収縮や関節変位は自動的に行われると考慮することである。

目的の動作や状態というのは,実行者がある姿勢を形成したり,体の部位を動かしたり,体全体を移動させたり,接触物を動かすことなどである。実行者が姿勢を変えることや「手をふる」ことなど,外界の物と接触しない動作をする場合は,実行者は体の表面の部位を導く先導端部位として,その空間的位置を移動させることを意図することになる。実行者が「物を持つ」「道具を動かす」など外界の物や道具と接触する動作をしていく場合は,実行者はその物や道具の部分を導くべき先導端として,その空間的位置の移動や物の変形などを意図することになる。

実行者が特定していく先導端は,体の表面部位だけではない。物や道具の部位でもよい。私達は物を持つと,その物を体の一部のように認識し,物の先まで触覚体験を延長することができる。これは私達の認知の仕方の特徴である。身体運動学の研究者である樋口貴広は,「ヒトが道具を身体の一部として自在に扱う時,その触覚体験は道具の先にまで延長している」と,この認知の仕方の特徴について述べている[30]

例えば,実行者がペンで字を書くのであればペン先を動かす意識で,字を書くようにするのである。また,野球のバットスイングでいえばバットのボールがあたる芯の部分を動かす意識,ゴルフスイングでいえばクラブヘッドを動かす,または導く意識で動作を行うようにする。

物とはいいにくいが,物の概念を延長し,発声時や楽器演奏時は「動かす空気」や「出される音」自体を先導端とすることができる。発声は内的な動作であり,その活動の目的は実行者が内的に接触している空気に圧力を伝えて,空気を振動させることとなるからである。発声の場合,実行者は「出したい声や音を出す」ことを意図し,筋収縮や関節の動きは自動的に行われるものと考えることになる。

是正を目指す人が,有利な姿勢と動作を実際に実現するにあたっては,その実行者が自身に向けて指示を出すようにするとよいと考えている。私が勧める指示の仕方は,この目的端先導の意図をベースにしたものである。実行者が立骨重心制御状態を実現するにあたっても,重鎮基底制動を実現するにあたっても,実行者は筋を用いて動いていくことになる。実行者がその際に,目的端先導の意図による指示を自身に出していくことで,過剰な筋緊張でそれを行ってしまうパターンを回避しやすくなるからである。

脚注

[30] 樋口貴広・森岡周 『身体運動学 知覚・認知からのメッセージ』 三輪書店,2008年。

第4章その9につづく)
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