第4章 即席保全の自動プログラムとその影響(その9)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




4. 即席保全の是正に向けて(つづき)

④是正した際には違和感を得やすい ⇒ 違和感を受け入れる

是正にあたっての難しさとなる四つ目の要素を挙げる。それは即席保全でいる人が即席保全の自動プログラムで対処している慣れた感覚に「倒れない」安心感を得やすく,有利な体の支え方の感覚に不安定感などの違和感を得やすいことである。
実行者が即席保全で体位を維持していれば,その支え方は骨傾斜容認や重心乖離容認でいて,倒れるリスクを後方に特定し,それを筋や靭帯で支えるという対処の仕方となりやすい。動作時においては筋緊張を過剰にして保全するという対処の仕方となるだろう。実行者がこの経験を蓄積した場合は,実行者は自身の得る感覚に安心感を得やすいだろう。従来の感覚に安心感を得ている場合は,それ以外の感覚をもたらす方法に対して「倒れない」という安心感を得にくい。実際に倒れるかどうかは別として,このいつもとは違う感覚に不安定さを感じることになる。

また,有利な体の支え方は立骨重心制御状態であるが,実行者が立骨重心制御状態でいる場合には,実行者は様々な方向に倒れうる平衡状態でおり,筋緊張を最小限にしていることになる。このため,この状態というのは,実行者が筋緊張を過剰にして保全している状態と比べると,「動きやすく様々な方向に倒れやすい」という感覚を是正した人が得る可能性のある状態といえる。是正した人は,通常の感覚から変わることだけでも違和感を得ることに加え,その変化を与えた状態に「動きやすく様々な方向に倒れやすい」感覚を得やすいため,不安定感という違和感を得てしまうのだろう。

即席保全でいる人は,倒れるリスクを後方に特定している場合が多い。このため,実行者が有利な立骨重心制御状態に是正した場合は,「前傾している」ように感じやすい。有利な支え方の状態は,実際に前傾している状態でもなければ,不安定な状態でもない。是正した人は,自身に定着した既存の感覚を基準としてしまうことから,相対的に前傾感や不安定感を得るのである。

こうしたことから,是正を目指す人は,即席保全の自動プログラムを是正していくにあたって,是正後の違和感を受け入れていく必要があるだろう。その上で,筋緊張を緩和した状態で同じ動作が行えているか,呼吸がしやすいかなどのように,結果としてよりよい状態や動作に至っているかを評価していくようにする。是正する人は,こうした経験を多く持てれば,はじめのうちに違和感として感じていた感覚に慣れてきて,違和感を無くすことができる。

⑤筋緊張の過剰性を認識しにくい⇒別の体の使い方の経験を得ていく

私達は自身が筋緊張を過剰にしていることに気づきにくい。そして,どのように過剰に筋緊張させているかも認識しにくい。これは,即席保全からの是正を目指す人にとっての難しさとなる。

筋緊張の感覚は私達が知覚できるものであり,それを固有感覚という。その言葉通り,この感覚は人それぞれの固有のものである。このため,私達が自身の得る筋緊張の感覚を,他者の得ている感覚と比較することは,難しい。つまり,ある人が自身の筋緊張の程度を他者の筋緊張の程度と比較することは難しい,ということである。こうした比較や評価ができないわけではない。計測器を用いれば筋緊張の程度を客観的に評価できる。しかし,通常時は計測器を用いないだろう。このため,比較することは一般的な環境としては難しいといえる。

他者の筋緊張と比較しにくいということは,仮に筋緊張の程度に最適な基準があったとしても,私達はその最適な基準と自身の筋緊張の程度を比較しにくい,ということを意味している。このため,私達は自身が筋緊張を過剰にしているか否かはわかりにくい,といえるだろう。自身の体の使い方が効率的なものかどうかの判別は容易ではないということである。

他者との比較は難しいが,私達は筋緊張の程度を自身の経験の中で比較することはできる。つまり,ある行い方と別の行い方における筋緊張の程度の違いは知覚できる。このため,私達は自身の行い方よりも効率的な行い方を経験することができれば,自身の行い方が効率的なのか否かに気づくことができるといえる。

しかし,私達は多くの行為を既存の方法である程度達成してしまうために,なかなか自身の行い方を変えようとはしないだろう。変えることが必須ではない。結果的に,私達の多くは既存の行い方に留まることになり,別の行い方で筋緊張を緩和できる体験と感覚を得ることがなくなってしまうだろう。このことも,私達が筋緊張を過剰にしていることに自身では気づきにくい理由の一つといえる。

私達は体の支え方のことは考えずとも多くの行為を一定レベルで達成してしまう中で,自身の固有感覚を客観的には評価しにくいため,私達は自身の筋緊張の過剰性を認識しにくいといえる。

即席保全でいる人も,自身では筋緊張を過剰にしている認識を持っていない人がいる。こうした人は,自身が不利な状態でいることに気づいていないため,当然のことながらそれを是正しようとも思わないだろう。しかし,負担は生じており,痛みや故障などの問題は起こりうる。

一方で,「体が固い」「動きが固い」と自身が筋緊張を過剰にしている認識を持つ人もいる。しかし,こうした人の多くは,どの筋をどの程度筋緊張させているのか認識しにくくなっているだろう。漠然と体全体の筋緊張を強くしている感覚を得ているだろう。そして,漠然とした過剰性に気づいたとしても,自身の体位維持の仕方が原因とは思わないため,自身の体位維持の仕方を変えることに至らず,筋緊張の緩和する他の体の使い方を経験できなくなっている。このため,その状態から脱却できない。

過剰性に気づいていない人と気づいている人のどちらについてもいえることは,筋緊張を緩和できる経験と感覚を得ることができれば,自身の現状の筋緊張の程度を評価できるようになり,具体的な過剰性を認識し,それを是正していくことができる,ということである。

即席保全からの是正を目指す人が,筋緊張を緩和できる経験と感覚を得るためには,別の体の使い方となる有利な体位維持の仕方を経験することである。その経験の中で感覚を得ることである。是正を目指す人は,第6章以降に有利な体位維持の仕方を実現して動作していくための指示の仕方を示しているが,これらを基に,既存の姿勢や動作の仕方とは違う体の使い方を実現していくようにするとよいだろう。

そして,是正を目指す人が適切な経験を得ていくことに最も役立つことが,レッスンを受けることである。是正を目指す人は,レッスンを受けることで,有利な体位維持の仕方を実際に経験することができ,筋緊張を緩和できる感覚を得ることができる。是正する人は,レッスンで指導者の導きによって,固有感覚の障壁を突破して,指導者である他者の感覚を得ることができるのである。

 

以上の五つのことが,即席保全の自動プログラムを定着させている人が是正をしていく際の難しさとなり,是正を目指す人のその難しさを克服していく方針である。

多くの人が,この体の使い方の是正が難しいことを十分に認識していないと考えている。良い姿勢を形成しようとして,継続的にそれを持続できる人はそれほど多くない。逆に筋緊張が強くなって疲れてしまう人も多いだろう。一定の割合の人は姿勢を放置してしまっているが,それは是正しようとしても適切にできなかったからかもしれない。

是正にあたっては,認知過程の活性化が求められ,体の使い方に対する「意識の仕方」を変えていく必要がある。そして,いくつかの特定の意識の仕方が求められるのである。これらによって,是正していきやすくなると考えている。

即席保全でいる人が,こうした難しさのある習慣を是正していくには,つまり姿勢動作の改善を目指すには,レッスンを受けることが一つの有効な手段となるだろう。

第4章その10につづく)
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