第6章 有利な体位維持の仕方の実現方法(その5)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




3. 頭の支え方

頭の支え方は,立骨重心制御の主要な制御の一つとなる。そして,後述するが,頭部制御は,腕や顎を吊り下げて支える役割をも担っている。有利意図の人は,頭を適切に支える意図を持つことで,動作時に腹筋群や首の筋群の筋緊張で頭が牽引を受けた際に,頭を制動して安定させることができ,効率的な動作を導くことができる。既に立骨重心制御の指示の中で頭の制御について基本的なことを述べたが,ここではそれを補足する。

有利意図の人は,前述した「頭を上方に持ち上げ,最高位置に位置づけ,額を適度に前方に向ける」という指示で頭を導き,その後に「首の前側に支えがある」と意図し,首の前側に頭の重さがかかるように促すとよい。図6−4に示している。有利意図の人は,額を適度に前方に向ける意識を持つことで,頸椎前側の頭長筋や頸長筋の働きを促すことができ,頸椎伸展をもたらす牽引に抵抗することができる。この指示は,頸椎伸展とは逆の頸椎屈曲の方向に導く目的端先導の意図である。

図6ー4 頭の支え方

図6ー4 頭の支え方

一定の割合の人は,頭を支える際に「首の背側の筋を使おう」とする動作意図を無自覚で持ちやすく,この意図で頭を支えるために首の背側の筋を過剰に筋緊張させやすいと考えている。なお,実行者は頭を支えるにあたって首の背側の筋群を継続して用いており,「首の背側が疲れる」感覚も得ることが多いだろう。この「首の背側が疲れる」感覚を実行者が得ることも,実行者の「首の背側の筋群を使っている」という認識を強めることに貢献しやすく,実行者が頭を支える際に「首の背側の筋を使う」動作意図を無自覚で持ちやすくなることに貢献しやすい。

しかし,実行者が「首の背側の筋を使って頭を支える」動作意図を無自覚に持ち続けていても,首の背側の筋群の筋緊張を緩和しにくい。これは,実行者が用いられる筋や関節を使おうとする意図だからである。このため,有利意図の人は,頭を首の前側で支えていく意図を持ち,それを気づいた時に繰り返し意図する方がよい。

また,多くの人は体位維持や行為の際に,そもそも頭に注意を向けようとはしないだろう。このため,一定の割合の人は頭を首の背側の筋で支えようとする動作意図を持つようになりやすいのだろう。



多くの人が頭に注意を向けない一つの理由は,頭を自身で視認できないため,自己の形成する身体イメージの中に頭を含まなくなるからではないかと考えられる[34]。私達は自己の身体イメージを形成しており,それは私達の動作の仕方にも影響を及ぼす。ある人の自己の身体イメージ形成には,その人の体性感覚情報に加えて視覚情報も貢献している[35]。私達は腕や脚を動かす際には腕や脚を視認することができるため,私達は腕や脚を自己の身体イメージに適切に含みやすいといえるだろう。動作時の身体イメージを運動イメージというが,私達が形成する運動イメージにも腕や脚を含みやすいだろう。これに対し,私達は頭を自身で直接的に視認することができない。鏡やモニターを使っての間接的な視認は可能だが,動作時においてはこれができる機会は少ないだろう。このため,私達は身体イメージや運動イメージに自身の頭を含みにくいのではないかという考えである。

頭はその重さや位置など構造的特徴から体位維持活動に大きな影響を与えるものであり,頭の制御は有利な体位維持活動に欠かせないものである。有利意図の人は,頭に積極的に注意を向けるべきである。

有利意図の人には,有利な頭の支持や動きを実現していくにあたって,頭の構造について正しい認識を持ち,正しい身体イメージを理性で形成していくことが求められる。以下に,構造の特徴を基にした頭の支え方について述べる。

頸椎と頭蓋骨は,側方視でみたときには耳孔の辺りで関節することは前述した(図6−3)。この位置が頸部の前側にあたるため,「首の前側で支える」という意図の理由の一つともなる。なお,首の前側の最下部には胸骨上端部があることから,有利意図の人はその胸骨上端部のことを考えて,「胸骨上端部上に頭の支えがある」「前側の支えは胸骨上端部を通過する」という意図を持つようにしてもよい。

頸椎と頭蓋骨の関節する高さは,正面から見た時に頬骨のやや下である。表面上は見えないが,頬骨の下端の高さ程度まで頸椎がある。このため,有利意図の人は「頭は顔の半分より上にある」ものと認識するとよい。実行者が「顔の半分より上の頭が,首の前側の支えに乗っている」という認識を持つことで,首の筋群の筋緊張を緩和しやすい。

また,有利意図の人は,頭を動かす際にも「顔の半分より上の頭を動かす」と意図する方がよい。この意図によって実行者は,頭の動きの先導部位を正しく認識することになり,筋や関節の適度な働きを促すことができる。実行者は「頬骨より上の頭を動かす」意図を持つことで,顔の中に隠れてしまう頸椎上部の関節の動きも適切に促すことができる。

指示の仕方:頭の支え方
  • 頭は「頬骨から上にある」と考える。
  • 頭を上方に持ち上げ,足底上の最高位置に位置づける。顔が正面を向くように額を適度に前方に向ける。
  • 頭を体全体の「立てた骨」に乗せている意図を持つ。立てた骨は体の前側にあると意識する。「首の前側で頭を支えている」と意図し,その前側の支えは胸骨上端部辺りにあると考える。
  • 頭が胴体から独立していつでも動けるような状態とし,首の筋群の過剰な筋緊張を抑制する。

脚注

[34] 「身体イメージは,いわゆる心像として身体を内的に意識化させたものを意味する」(樋口貴広・森岡周 『身体運動学 知覚・認知からのメッセージ』 三輪書店,2008年。)
[35] 「身体イメージの形成には,体性感覚情報と背側経路からの視覚情報との統合が重要となる」(樋口貴広・森岡周 『身体運動学 知覚・認知からのメッセージ』 三輪書店,2008年。)

第6章その6につづく)
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