第6章 有利な体位維持の仕方の実現方法(その8)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




6. 座位時の指示の仕方

椅子に座る座位(背もたれを用いない)

ここでは,椅子に座る座位で,まずは背もたれを用いずに上半身直立にする状態を実現するための指示について考える。私達は座位でも立骨重心制御をしていくことで,その状態を有利なものにできる。座位において,私達が起こしているのは上半身である。座位で立骨重心制御することとは,実行者が骨盤から上の上半身の体を支える骨を立てて,上半身の重心を支持基底面上の適切位置に位置づけることとなる。図6−6(1)に理想的な状態を示している。

図6ー6 座位における立骨重心制御

図6ー6 座位における立骨重心制御

指示の仕方:椅子に座る(背もたれを用いない)
  • 骨盤を立てるために,上半身の体重による圧力中心が坐骨接面部よりも少し前にかかるように腹部前面を前に導く。
  • 頭を上方に持ち上げ,座面上の最高位置に位置づける。額を適度に前方に向ける。その上で,「立てた骨」に乗せる意図を持つ。立てた骨は体の前側にあると考え,体の前側で支えるように意図する。腹部,首の前側に体重がかかる感覚を得るように体を導く。
  • 足底と殿部の接面部に体重を預ける意図を持つ。
  • 呼吸したときに,腹部前面が膨らんだりへこんだりする。頭が胴体から独立していつでも動ける状態かを確認する。

基本的な導き方となる「頭を最高位置に位置づけて,額を前方に向ける」「前側で支える」などは立位と同じである。立位と座位の違いは,支持部位と骨盤の立たせ方である。

ここでは背もたれを用いない座位の場合を考えている。この際の支持部位は足底に加えて大腿から殿部にかけての座面と接している部位となる。座面と接する殿部の部位の中では,坐骨という骨盤の一部の部位に強く接触感を感じるだろう。この坐骨を通じて実行者の体重が座面に荷重され,実行者は坐骨で座面から反力を受けることになる。この場合は,足底から坐骨接面部までが実行者にとっての支持基底面となる。

私達は座位時には立位時以上に骨盤を後傾させやすい。それは,座位の時に体は股関節屈曲位となり,大腿部前側の股関節伸展の筋群が伸張し,これらが骨盤を後傾させるように牽引するからである。特に大腿二頭筋は骨盤下部に付着して骨盤を後方に牽引する主たる筋となる。しかし,骨盤が座面に対し後傾していれば,骨傾斜となって上からの荷重と下からの反力で骨盤に偶力が生じることと,脊柱の屈曲を伴いやすいことから,実行者はその状態で体を支えるにあたって筋や靭帯の負担を大きくする。座位では骨盤を立たせにくくなることから,多くの人が骨盤を立たせようとせずに,こうした負担を課してしまう。私達は,座位時の方が立位時よりも体の負担を大きくしやすく,体の問題を生じさせやすい。

実行者は座位時に骨盤を立たせるために,「腹部前面を前方に導く」ようにする(図6−6(1))。これが,股関節の動きを促す最良の導き方であると考えている。これは,目的端先導の考えを用いている。実行者は後傾しやすい骨盤を立てるために,骨盤を前方に向かって起こす必要があるが,この動きにおいては腹部前面が導きたい前方方向の先端となるからである。また,実行者が腹部前面を導こうとすることで,最も近い関節である股関節の動きを促すことができる。仮に,実行者が頭や胸の前面を前に導いて骨盤を立てようとすれば,実行者は頭や胸から股関節までの間にある脊柱の屈曲を起こしてしまいやすいだろう。



また,「骨盤を立てる」ことは他の姿勢指導でも推奨されていたりするが,その多くが骨盤を立てるために「背側の腰部を前にする」「仙骨を立てる」などのように,背側の部位を前に導く方法を推奨している。私はこれよりも前側の腹部前面を導く方法を勧めたい。それは,座位においても実行者は体の前側の支えを考えた方がよく,あまり背側に注意を向けるべきでないと考えるからである。背筋群は実際に用いられる筋だが,実行者が背側の方に注意を向けると実際に使う筋や関節に注意を向けることになり,背側の筋群に必要以上の筋緊張を生じさせてしまいやすいからである。実行者はこの結果,過伸展位になる場合もある。

実行者は,「上半身の体重による圧力中心が坐骨接面部よりも少し前にかかるところ」まで腹部前面を前方に導くとよい。こうすることで,実行者は足底から坐骨接面部までで形成される支持基底面上に上半身の重心を位置づけることができ,背筋群が他動的に伸張されて筋緊張する本来の支え方の状態を導くことができる。骨傾斜容認の状態だった人は,この状態でいることで,上半身をかなり前方に位置づける感覚を得るかもしれない。または,腰部背側を反らしている感覚を得るかもしれない。なぜなら,こうした人は座位時に骨盤を後傾させることを定着させていて,その状態を支える感覚に慣れているからであろう。

骨傾斜容認の人は,座位で姿勢をよくしようとした際に,上半身の体重がかかる圧力中心を坐骨接面部よりも後方に留めてしまうかもしれない。なぜなら,実行者は背すじを伸ばそうとして脊柱を伸展させるものの,骨盤を後傾させたままでいる場合が多いからであろう。この場合は,実行者の上半身に後方に倒れる力のモーメントが生じているため,実行者は大腿四頭筋や腸腰筋,または腹筋群の筋緊張を強いものとしているだろう。

また,重心乖離容認の人は,座位時に足のことを考慮せずに殿部だけを支持部位と考え,殿部の坐骨接面部上に上半身を位置づけようとしてしまうかもしれない。これは,実行者が支持基底面の端となる坐骨接面部に重心を位置づけようとする行為であり,この実行者は筋緊張を緩和させにくい。実行者が支持基底面の端に重心を位置づけている状態では,重心が後方に乖離して体がいつ倒れてもよいように,実行者は予備的に前側の筋群を筋緊張させて待機せざるを得ないだろう。有利意図の人は「支持基底面は足底と坐骨接面部で形成される体の前側にある」と考え,そこまで重心投射点となる「体重の圧力を感じる中心部」を導くことで,立骨重心制御状態を実現できる。

実行者は「上半身の体重による圧力中心が坐骨接面部よりも少し前にかかるところまで,腹部前面を前方に導く」ことで,足底と坐骨接面部に荷重がかかる感覚を得る。実行者は,足底よりも坐骨接面部により多く体重の荷重圧力を感じることになるだろう。実行者は足底にも荷重圧力を感じることになるが,実行者が足底に感じる圧力は上半身直立位であれば坐骨接面部で感じる圧力ほどではない。脚の重さ程度の荷重圧力感を得ると考えてもよい。実行者が座位時に支持部位接面部で最大面積荷重をかけている状態は,実行者が足底と坐骨接面部でそれぞれ荷重圧力を感じる状態に導くことで実現できる。

実行者が「腹部前面を前方に導く」ことで,腸腰筋や腹筋群,大腿四頭筋等を筋緊張させて働かせることになる。座位では骨盤は後傾する方に牽引されているが,その牽引に抗って骨盤を前方に導くものがこれらの筋群の働きである。しかし,実行者が骨盤と脊柱を立たせて立骨重心制御状態まで導いた後の状態維持の段階では,自身の重量の荷重を体を支える骨の安定化に活かせるようになり,腸腰筋や腹筋群などの筋緊張はそれほど必要ではなくなる。実行者がこれらの筋緊張を緩めるためには,立骨重心制御状態に導いた後に「体重を足底と坐骨接面部に落とす」ことを意図し,息を吐くようにして呼吸で腹部前面の動きを確認するとよい。

有利意図の人は,片方の脚の脛の面が床面に対して垂直となるようにするとよい。図6−6(1)のような脚の状態である。この場合,実行者は上半身の重量の荷重の一部を脚にかけることとなり,大腿骨を通じて脛骨の大腿骨関節部を前方に押すことになる。この時に実行者が脛骨を垂直にしていれば,脛骨をつっかえ棒のように利用することができ,足底で得る摩擦を活かして脛骨から大腿骨に拮抗する反力を返しやすくなる。大腿骨に反力を返すために筋緊張の依存度を減らすことができる。もう一方の脚は,片方の脚と同じようにしてもよいし,適度に自身の体の方に曲げていてもよい。

その他の留意点
  • 背部や腰を意識して上半身を支えようとはしない。
  • デスクワーク作業時を含め,実行者は様々な際に前傾してもよい。支持基底面は体の前方に広がっており,体重が前にいく分には実行者はこの支え方で対処できる。この場合,実行者は足底により荷重がかかる感覚を得ることになる。
  • 放っておけば,骨盤は後傾しやすい。気づいたときに腹部前面を前にして骨盤を立てるようにする。
  • 左右両方の坐骨接面部に均等に体重をかけている状態の方がよい。
  • ずっとこの状態を維持しないと負担を軽減できないわけではない。実行者は座り方のパターンの一つとしてこれを採用して一定の時間を過ごすようにするだけでも,体の負担を減らせるだろう。

背もたれを用いる座位

私達は背もたれを用いて座ることもあるだろう。車や電車,飛行機の移動の際には,私達はシートの背もたれに上体を預ける形になるだろう。また,映画や演劇鑑賞時にもこのように座ることになるだろう。

私達が背もたれを用いる時間を長時間続けると,局所的な負荷を大きくして腰が痛くなったり,首がこったりする。有利意図の人は,長時間座位を続ける際には,一貫して背もたれを用いるのではなく,前述した立骨重心制御の座位の時間を持つようにするとよい。背もたれを使う座位と,それを使わない座位では実行者の体にかかる負荷の部位が異なることから,これらを併用することで実行者は局所的な負荷を一貫して受ける状態を避けられる。

私達が背もたれを用いて椅子に座る場合は,多くの場合は骨盤を後傾させることになり,脊柱も屈曲させることになる。この結果,仙腸関節や仙骨腰椎関節の靭帯,腰椎に負担をかけることになる。脊柱や骨盤が骨傾斜の状態で上半身の重量の荷重を受けることとなり,腰椎や仙腸関節に曲げや剪断の力が働くからである。私達が立骨重心制御の座位で座れば,骨を立骨状態とすることで各脊柱や仙腸関節に最大面積荷重として体重の荷重を伝えさせることができ,椎間板や靭帯の負担を軽減することができる。顕在化しやすい問題を回避しやすくなる。

背もたれを使う座位では,背もたれとの接触部も実行者の支持部位の一つとなる。背部の背もたれとの接触部と,殿部から大腿にかけての座面との接触部が,実行者の主な支持部位となる(図6−6(2))。実行者は,後方の背もたれに体重を預けられるため,足底を主要な支持部位から外して考えてよい。実行者は,完全に体重を支持部位である殿部と背中に預けることを考えるとよい。この場合は,実行者は骨盤の後傾と腰椎の屈曲も容認してよい。実行者が背もたれに預ける選択をした以上は,実行者の上体は確実に後方に倒れる力を受けることになるため,実行者はその力に抗って上体を支えようとはしない方がよい。背もたれを使いながらもこのように支えてしまっている人もいるが,その必要性がないことから,その人の筋緊張の程度は過剰なものといえる。

図6ー6 座位における立骨重心制御

(再掲)図6ー6 座位における立骨重心制御

有利意図の人が更に考えるべきことは,頭の支え方のことである。胴体部は背もたれにその重さを預けられるため,筋で支える必要はなくなるが,頭はヘッドレストを用いない限り,自身で支えなければならない。実行者は腰椎を屈曲させていることもあって,胸郭前傾に加えて,頭部前方突出と頸椎伸展を起こしやすくなっている。有利意図の人は,頭部の適切な支え方に従って頭を上方に持ち上げるが,この場合は肩に対して上に持ち上げるようにする。そして,首の前側にある胸骨上端部で頭の重さを支える意図を持つようにする。この場合,実行者は,直立立位で立骨重心制御状態にした時の頭の位置よりもやや後方に頭を位置づけることになるだろう。やや後方に位置づけながら,頭の重さを首の前側の支えに預ける感覚で頭を支えるとよい。

また,実行者が頭をあえてやや後方に位置づけている状態でいるということは,同時に実行者が頭を前方に動かしやすい状態でいることを意味している。実行者は前方のものを見ているだろうが,見ている光が自身の方に向かってくることを再認識し,その光を目で受け取っていると考えるとよい。実行者はこの考えによって,頭を見ている対象の方に動かしてしまわないようにでき,頭部前方突出を回避しやすくなる。

多くの人が車を運転する際には背もたれを用いて座るが,ドライバーは前方に見えるものに注意を多く向ける必要があり,ドライバーは頭部前方突出の状態になりやすい。この状態を継続させるとドライバーの頸部負担は大きくなる。有利意図の人は,頭部前方突出にならないように頭を制御し,前方視野からの光を目で受け取っているように考慮するとよい。この物の見方に関する考慮は,実行者の頭部前方突出を回避しやすくする一つの指示である。有利意図の人は,背もたれを使っていないときにもこの考慮を応用するとよい。

指示の仕方:椅子に座る(背もたれを用いる)
  • 背中の背もたれとの接触部位と殿部から大腿にかけての座面との接触部位に体重を預ける。
  • 頭を肩に対して上方向に持ち上げ,首の前側の支えに乗せている意識を持つ。
  • 呼吸したときに,腹部前面が膨らんだりへこんだりできる。頭が胴体から独立していつでも動ける状態か確認する。
  • 見ている光を目で受け取っていることを意識し,頭部前方突出を避ける。

(第6章終わり。第7章につづく)
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有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声


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