第7章 有利な動作の実現方法(その3)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声
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3. 腕や脚の動作

参考動作1:ゴルフのスイング

ゴルフのスイングでは実行者は中腰になるが,実行者は立骨重心制御で足底全体に体重がかかるように脚や殿部を動かし,体の重心を足底上の適切位置に位置づける。その状態に導けたかどうかは,呼吸をした際に腹部前面が動く程度に腹筋群が緩んでいるかどうかで確認できる。頭を中腰状態における最高位置に位置づけて,額も適度に前下方に向けるようにする。

実行者はスイング時に,重鎮基底制動で「足底に体重を預けて,足底が止まっていることを考えてクラブヘッドを動かす」ようにする。テイクバックもその後のスイングも同様である。その上で,ボールにあたるインパクトの際に「胸骨上端部と額からクラブヘッドに力を伝えている」ことを意図する。実行者は「力が,腕やクラブを通って伝わっていく」イメージではなく,「胸骨上端部や額からクラブヘッドまで直線で力を伝えている」イメージを持つとよい。この力の流れの源は足底であり,胸骨上端部や頭の額は中継部位であることを実行者は留意し,足底とクラブヘッドの意識上のつながりを継続させる。

クラブは道具であるが,実行者は手でクラブを持つことでクラブを自身の体の一部と認識して動かすことができる。実行者はボールをあてるクラブヘッドを「動きを導く先導端」とし,クラブヘッドを動かす意図でスイングする。または,クラブヘッドの軌道を考えて,その軌道上を導く意図を持って行ってもよい。



参考動作2:ピアノを弾く

ピアノを弾く際には,奏者は立骨重心制御の座位を考えて,足底と坐骨接面部で形成する支持基底面上に上半身の重心を位置づけるために,坐骨接面部よりも少し前方に上半身の体重による圧力中心を感じられる程度まで腹部前面を前方に導いて,骨盤を立てる。

奏者は弾く際に,重鎮基底制動を実現するために「足底や殿部に体重を預けて,足底や殿部が止まっていることを考えて,指や手を動かす」と意図して弾く。特に,力強く演奏したり,速い速度で演奏する場合には,奏者は頭を最高位置に位置づけて額を適度に前方に向けながら,「胸骨上端部や額から指や手を動かす力を伝える」ことも考える。胸骨上端部や額から直線的に指や手に力を伝えているイメージを持つとよい。また,奏者が上半身全体の立てた骨を通じて殿部を座面に押し付けながら力を発揮する意図を持つことも,体のぶれを少なくし,最小限の筋緊張による大きな力の発揮や速い動作の実現に貢献する。

実行者は,固有制動先を動作の先導端部位に近づけた方が制御しやすく感じるだろう。上半身を前傾させて,胸骨上端部や額を鍵盤に少し近づけることで,より体を制動しやすくなり,安定した力の発揮を行いやすくなる。なお,奏者は,腹筋群や首の筋群を過度に筋緊張させていないかを時々確認する。

参考動作3:デスクワークでタイピング動作をする

椅子に座る座位でパソコンでタイピングする動作は,多くの人が行う動作になるだろう。業務でこの行為が長時間続くような人が,一貫して椅子の背もたれを用いた状態で行うと負担が大きく,腰痛や首や肩のこりなどの問題に至りやすい。背もたれを用いずに行う方が有利であると私は考えている。ここでは背もたれを用いないやり方を述べる。背もたれを使ってはいけないわけではない。

有利意図の人は立骨重心制御の座位を考えて,足底と坐骨接面部で形成する支持基底面上に上半身の重心を位置づけるために,坐骨接面部よりも少し前方に上半身の体重による圧力中心を感じられる程度まで腹部前面を前方に導いて,骨盤を立てる(図7−2(1))。実行者はタイピングする際に,重鎮基底制動を実現するために「足底や殿部に上半身の体重を預けて,足底や殿部が止まっていることを考えて,指や手を動かす」と意図して,タイピングする。

図7ー2 デスクワークのタイピング動作

図7ー2 デスクワークのタイピング動作

この行為が長時間続く場合は,実行者は肩甲骨周りの筋群に疲労を感じるかもしれない。このため,「肩甲骨周りの筋を使う」動作意図を無自覚で形成しているかもしれない。実行者は,この動作意図で行っている状態を放置すれば,「腕や肩を持ち続けるような状態」を継続させてしまい,過剰な筋緊張や負担を解放しにくい。有利意図の人は,積極的に胸骨上端部に注意を向け,「腕を吊りさげて,腕の重さを胸骨上端部にかけるようにし,胸骨上端部や額を通って指や手を動かす力を伝える」ことを考える。このときも胸骨上端部や額から直線的に指や手に力を伝えるイメージを持つとよい。実行者は前腕の一部を机の上に乗せるなど,前腕の重さを机に預けるようにするとよい。この場合は,「前腕の重さを机に預け,肘を吊り下げる」と考えるとよい。

実行者は上半身を多少前傾させて行ってもかまわない。この場合,実行者は前腕部の机との接触部を通じて机に上半身の体重をかけてしまうのではなく,上半身の重さを足底と殿部で受け止めていることを考える。実行者は前傾することによって,より足底に体重がかかる状態になり,その感覚を得るように考えておくとよい。

タイピング動作を多く行う人は,タイピングの速度を上げて行ってしまいやすい。実行者がかなり速い速度でタイピングする状態を継続させると,過剰共縮制動による腹筋群と首の筋群の筋緊張が継続し,実行者の首の筋群負担が大きくなる。また,実行者の呼吸も浅くなっているだろう。有利意図の人は,速くできるからといって速度を過度に上げずに,時々は「我に返る」ように自身の状態に気づき,速度の適正化を図った方がよい。なお,腹筋群と首の筋群に過剰に筋緊張が生じていないかを時々確認する。

有利意図の人は,モニターを見る際に,見ているのは光であり,光が自身の方に向かってくることを考え,その光を目で受け取っているように時折に考えるようにする。実行者は,これによって頭部前方突出と脊柱屈曲となる「頭をモニターの方に近づけてしまうこと」を抑制しやすくなる。

参考動作4:サッカーボールを蹴る

サッカーでボールを足の甲で蹴る際には,実行者は「接地している方の足の足底が止まっていることを考え,蹴り足を動かしていく」ことを意図する。その上で,頭を最高位置に位置づけて,額を適度に前方か,または蹴るボールの方に少し向けながら,「腹部前面と額から足の甲に力を伝える」ことを意図して蹴る。この意図は,腹部前面から足の甲に力を伝える意図であり,腹筋群の筋緊張を積極的に加える意図ではない。力強く蹴る際には,腹筋群にはそれなりの強さの筋緊張が生じるが,実行者は「勝手に適度な筋緊張が生じる」と考えておくとよい。

腹筋群の筋緊張を強めていることから,実行者は胸郭前傾と頭部前方突出,頸椎伸展を起こしやすい。実行者は結果的に顎を上げる形で蹴る動作を行ってしまうかもしれない。これは,不必要な筋緊張をもたらす不必要な動きである。有利意図の人は,頭にも注意を向け,額を蹴るボールの方に少し向けながら,蹴る動作を行う方がよい。「顎を引く」と考えてもよい。実行者はこれによって不必要な動きを避けられることに加え,接地している足に体重を留めやすくなる。

参考動作5:自転車をこぐ

自転車に乗って脚でペダルをこぐ際には,実行者は支持部位である「サドルに接する殿部とハンドルに接する手で自身の体重を支えていることを考えて,支持部位が止まっていることを考え,ペダルを踏んでこぐ」ことを意図する。また,頭を最高位置に位置づけて額を適度に前方,または前下方に向けながら,「腹部前面と額から足底のペダルに力を伝える」ことを意図する。これは,腹部前面から力を伝える意図であり,腹筋群の筋緊張を積極的に加える意図ではない。こぐ力の強さにもよるが,実行者には腹筋群と首の筋群にの筋緊張が一定程度生じるだろう。実行者は「勝手に適度な筋緊張が生じる」と考えておくとよい。時折に,呼吸をした際に腹部前面が動く程度かどうかを確認するとよい。

有利意図の人は,立骨重心制御を考えて,腹部前面を前に導いて骨盤や脊柱を立てるようにし,頭の額をやや下に向けると,こぐ際に生じる腹筋群と首の筋群の筋緊張による牽引に拮抗しやすくなる。一定の割合の人は,頸椎伸展を容認して顎を上げた状態にしてこいでしまっているが,この場合は頸椎への負担や首の筋群の負担を大きくしてしまう。

腕や脚を動かす際に注意すること

私達が腕を動かす場合は,腕を体よりも前に位置づけることになるだろう。腕を自身の体の後ろ側で使う機会というのは特殊なエクササイズやストレッチなどを除けば極めて少ない。腕を体の前で使うという行為の影響は,自身の重量配分が変わり,体の前側が重くなるということである。これは当たり前のことであるが,私達はこの影響をあまり考えないために,不利な体位維持の仕方にしてしまう。

この際に実行者が無思慮な対応でいれば,前側が重くなったものを修正するために,実行者は骨盤スライド後傾を生じさせて上半身を後方に傾ける形にするか,または脊柱を伸展させてしまいやすい。どちらの場合も実行者は背部の肩甲骨辺りを殿部表面よりも後方に位置づけることになる。また,実行者が重心乖離容認でいれば,この上半身を後傾する動作によって,重心を適切位置よりも後方に位置づけてしまいやすい。この場合,実行者は前側の筋や靭帯の動員を強めてその状態を支えることとなる(図7−3(2))。

図7ー3 腕を持ち上げる時の姿勢変化

図7ー3 腕を持ち上げる時の姿勢変化

実行者が手や腕で何かを持つ場合もあるだろう。その場合は,持った物の重さも実行者の体重に加わるため,実行者はその分傾斜の度合いを大きくさせて,筋緊張を強くさせやすい。実行者がこの対処に加えてバルサルバ操作を用いている可能性もある。特に動き出しの際に息を止めているかもしれない。

一定の割合の人は,立位でも座位でもこのような対処の仕方をしている。炊事をする際に私達は腕をよく使うことになるが,骨盤スライド後傾させて重心を後方に乖離させてしまう人は一定程度いる。実行者は靭帯張力に頼って骨格によりかかるように体を支えており,靭帯や椎間板への負担を大きくしている。実行者はこの状態で炊事の動作をすることができるが,過剰共縮制動を採用しやすく,体の筋緊張を強くしてその動作を行うことになる。楽器演奏者や歌手,ダンサー,乗馬の騎手,アスリートといった人も,この重心変位への対処を放置しやすく,筋緊張の強化で即席の解決を図ってしまっているかもしれない。こうした対処の仕方は,パフォーマンスの成否に一定の影響を与えるだろう。

有利意図の人は,この対処を是正するために,脚を用いて重量バランスを適切なものとし,上半身の立骨重心制御を実現し続けるようにする。特に,骨盤を立骨状態とするように脚を用いるようにする。立位時でいえば,実行者は手や腕を動かす時に,動かした後にも脛と大腿部前側に体重がかかる程度に殿部を後方に位置づけておくようにするのである(図7−3(1))。これは,実行者の腕の動作によって自身の前側が重くなった分を,実行者が殿部を少し後ろにすることで重量配分調整する対処となる。

実行者が物を持たずに静かに腕を動かす程度であれば,実行者は殿部をそれほど動かさなくともよいだろう。ただし,有利意図の人は,必要に応じて動けるように,いつでも殿部を後方にする意図を持っておくとよい。この場合,殿部は脚の動きの先導端となることから,実行者は殿部を導くことで脚の筋の適度な働きや関節の動きを促すことができる。実行者はこのように脚を用いることで,上半身の負担を軽減させることができ,呼吸を制約しないようにできるなど,有利な動作を行えるようになる。

実行者が座位時に腕を動かす際における対処の仕方については,第8章の管楽器の支え方で説明する。
腕ではなく実行者が脚を動かす際にも,同様のことがいえる。脚も前側で使う場合が多いだろう。有利意図の人は,自身の重量バランスを考慮して脚を動かすようにする。その際には,求められる力の程度にもよるものの,実行者は殿部を後方に,頭も含めて上半身をやや前方に傾かせる形で重量バランスを適切なものとするで,問題につながりやすい腹筋群や首の筋群の筋緊張を緩和することができるだろう。

第7章その4につづく)
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