第7章 有利な動作の実現方法(その6)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声




4. 体軸の動作(椅子から立つ/座る,歩行,体軸のひねり等)(つづき)

歩行

有利意図の人が歩行で意図すべきことは「足底の摩擦による抑止を基にして,頭と胴体を前に導き,それに応じて脚を出す」ことである。

一定の割合の人は,歩行を「脚を動かして進む動作」と認識し,「脚を動かす」ことのみを意図して歩行しているかもしれない。こうした人の動作イメージとしては,「脚で歩くのであって,上半身はその脚に乗る形で進む」というものになっているかもしれない。実行者がこうした意図やイメージで歩行すると,脚を頭や胴体よりも先行させる状態にしやすい。この場合,胸から上の部分が下半身に置いていかれる形になり,実行者は腰椎を伸展させて少し反らした状態にしていやすい(図7−6(2))。この場合は,実行者の上半身には後方に倒れる力が生じており,実行者はそれを筋で支えながら前進することになる。このため,実行者は歩行動作を重く感じることになるだろう。同時に,腰椎伸展も起こしていて腰椎にも負担を与えている。実行者は前側の筋で後方に倒れる力を支えることになり,腹筋群の筋緊張を強めていやすい。また,頭を後方に倒さないように,首の筋群の筋緊張を強めているだろう。

図7−6 歩行動作

図7−6 歩行動作

これは,実行者が脚を動かして進む意図を持っていることに加え,上半身の慣性の影響を無視しているために起こることである。慣性は,止まっているものがその位置に留まろうとする物の特徴である。上半身は下半身の上に乗るもので,下半身が加速する際には,慣性で上半身はそこに留まりやすい。この結果,上半身は進行方向とは逆側に倒される力を受けることになる。実行者がそれを容認すれば,脊柱を伸展させることになる。この慣性の影響を受けて実行者が骨傾斜させやすい箇所が,骨盤の少し上にあたる腰椎と,頭を支える頸椎である。頭は,最高位置に位置しており,頸椎にのみ支えられているという構造的な不安定さがあり,慣性の影響を特に受けやすい部位といえるだろう。実行者が骨傾斜容認でいれば,慣性の影響を受けて頭を後方に少し倒れさせる形で頸椎伸展させてしまうだろう。そして,首の筋群の筋緊張を強くして頭を支えることになる。



有利意図の人は,慣性の影響を受けやすい頭と胴体を前方に導くようにするのである。実際の指示としては「頭と胴体の前面を前に導く」とするとよい。または,立骨重心制御の「体の前側の支え」を軸と考え,その「体の前側の軸を前方に導く」とするのでもよい。実行者がこのように意図して導くことは慣性の影響を織り込んだ対処となり,実行者は脊柱の立骨状態を歩行中も維持し続けることができる(図7−6(1))。

即席保全の人はこうした骨傾斜容認とは別に,脚を動かす際に過剰共縮制動を採用し,腹筋群の筋緊張を強めているかもしれない。実行者が「自身を進ませるために関わる力は自身の筋力のみ」というような無自覚な認識を持っていれば,このような筋緊張に強く依存していく動作をしやすい。これも是正すべき認識である。筋力以外の自身に働く力として,歩行動作で実行者が考えるべきものは摩擦の力である。摩擦がなければ,私達は前に進めないからである。有利意図の人は摩擦の力を有効に活かすことも考え,重鎮基底制動を意図し,足底と床面の摩擦を考えるようにする。そして,「摩擦を使う」と意図するとよい。指示の仕方としては「立脚した足の足底が摩擦で止まっているから,頭と胴体を前に導くことができ,もう一方の脚(遊脚)を前にいく頭と胴体を支えるために同時に動かしていく。それを交互に行う」というものにするとよい。

指示の仕方:歩行
  • 立骨重心制御を実現する。頭を最高位置に位置づけ,額を適度に前方に向け,骨盤を立てる。これを動作中も継続させる。
  • 足底に体重を預けていることを考え,足底と床面との間で摩擦が生じていることを考える。
  • 「頭と胴体の前面を前方に導き,脚も同時に動かす」という意図で体全体を前に導く。または,「立脚した足の足底が摩擦で止まっているから,頭と胴体を前に導くことができ,もう一方の脚(遊脚)を前にいく頭と胴体を支えるために同時に動かしていく。それを交互に行う」と意図するのでもよい。
  • 呼吸したときに,腹部前面が膨らんだりへこんだりできる。頭が胴体から独立していつでも動ける状態で歩く。
留意点
  • 動き出しは首の筋群と腹筋群の筋緊張を強くしやすい。頭に注意を向け,頭を胴体と共に前に導くようにし,これらの筋群を過剰に筋緊張させないように動き出す。
  • 速く歩く際には,先導端となる「頭と胴体の前面」をそのスピードで導き,脚もそれに応じる形で動かすと意図する。また,腹部前面や額から,脚を動かす力を伝えられると思ってもよい。「腹筋を使う」ように腹筋群に積極的に筋緊張を加えるわけではない。
  • 立脚していく時は,かかとから着地する。
  • 立脚期で足が着地している際に,膝の屈曲を過剰に起こさないようにする。膝の屈曲を進めて,衝撃を吸収しようとはしない方がよい。
  • 体重は自身の立脚する片足の足底に落とす意図を持つ。実行者は歩行時に両足に交互に荷重していくが,上半身を左右に大きくは揺らさないようにする。多少の揺れは起こるものの,実行者の意図としては上半身を中心部に位置づけ続けるようにする。
  • 走る行為とは異なるため,前傾せずともよく,後傾しないことを考えればよい。走る行為の場合は,加速時に前に傾くことを促すようにして前進を速めることになる。

上半身を動かす動作(上半身を前後,左右に動かす)

武道では実行者は中腰の状態で体を前後に動かし,相手との距離を図る。また,左右に体を動かしながら相手からの打撃を除けたり,または攻撃する。また,マッサージ等の施術者は,中腰で足を止めた状態で,上半身を前後左右に動かしながらクライアントを手と腕でマッサージしていったり,クライアントの体を動かしていく。

有利意図の人は,こうした上半身の動きをする際には,前後左右のいずれの方向に体を動かすにしろ,床面で足底が止まっていることを考えて,「頭と胴体を動かす」ことを考える。この際に,体を支えるための「前側の体の軸」を先導端とするとよい。この架空の前側の軸は,腹部や胸骨上端部を通過し,前頭部までを貫くものとし,その軸を先導端として,重鎮基底制動を元にして動かしたい方向に導くとよい。

武道の動きやマッサージ等の施術などで腕や脚を動かしながら上半身を動かす際は,実行者は「頭と胴体を動かす」ことを意図しなくなりやすい。しかし,実行者は腕や脚を動かしながらも,「頭と胴体を動かす」ことを同時に意図した方がよい。この方が,実行者は体位維持における不必要な動きや筋緊張を起こさずに,効率的な力の発揮を実現できるだろう。実行者は「力がのる」「体全体を使っている」といった有利に動ける感覚を得やすい。

また,上半身を動かす動作において大きな力の発揮や速い速度が求められる場合は,有利意図の人は,脚の動きと同様に,体の重心部である腹部前面を固有制動先として「腹部前面から頭と胴体を動かす力を伝える」と意図するとよい。実行者は,足部が止まっていて上半身を動かす動作を「上半身の動作」と認識しやすいが,これは脚の筋を用いる「脚の動作」である。脚の動作の固有制動先の意図を,このような上半身を動かす動作に転用することができる。

指示の仕方:上半身を動かす動作
  • 立骨重心制御を実現する。頭を最高位置に位置づけて額を適度に前方に向け,骨盤を立てる。体重心を支持基底面上の適切位置に位置づけるために,足底全体に体重がかかるようにする。これを動作中も継続させる。
  • 足底に体重を預けていることを考え,足底と地面との間に摩擦が生じていることを考える。
  • 足底が止まっていることを考え,「頭と胴体の前側の支えの軸」を動かしたい方向に導く意図で動かす。
  • 腹筋群と首の筋群には過剰な筋緊張を生じさせないようにする。
  • 大きな力の発揮や速い速度が求められる場合は,腹部前面から頭と胴体を動かす力を伝えると意図する。

第7章その7につづく)
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有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声


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