第7章 有利な動作の実現方法(その7)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声
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目次

4. 体軸の動作(椅子から立つ/座る,歩行,体軸のひねり等)(つづき)

体軸のひねり(スイングの動き)

野球のバットのスイングや,ゴルフクラブのスイング,武道における蹴りの動きは,実行者が足底を止めていて体軸をひねる動作を含む動作になる。ここでは野球のバットスイングを例にとって,有利意図の人が持つべき指示の仕方を示す。なお,図7−7に実行者が注意を向けていくべき体の位置を示している。

図7ー7 バットスイングの動作:力の流れで意識する箇所

図7ー7 バットスイングの動作:力の流れで意識する箇所

指示の仕方:野球のバットスイング

  • ・立骨重心制御を実現する。頭を最高位置に位置づけて額を適度に前方に向け,骨盤を立てる。体重心を支持基底面上の適切位置に位置づけ,足底全体に体重がかかるようにする。これを動作中も継続させる。
  • ・かまえている時に,足底に体重を預けることを考え,足底と地面との間に摩擦が生じていることを考える。
  • ・足底が止まっていることを考えて,ボールをあてるべきバットの芯を動かすと意図して動く。そして,「バットの芯をボールにあてる」と意図してスイングする。
  • ・実行者は,「足底が止まっていること」をスイングする力の起原であると考え,スイングする力を,腹部前面や胸骨上端部,額を中継させてバットの芯に伝えると意図する。特にボールにあたるインパクトの時に,こうした体の前面部位から力を伝えると意図するとよい。
  • ・腹筋群と首の筋群を過剰に筋緊張させないようにする。

ここでは構え方,テイクバックの仕方やフォロースルー,スイング中の体重移動の仕方については詳しく触れない。ボールを打ち返すという行為の中で,核となるスイングの動きについてのみ示している。読者には,構え方,テイクバック,フォロースルー,体重移動について,自身の仕方や指導を受けた仕方があるだろう。有利意図の人は,これらを行う際に重鎮基底制動で行うことを考えてもらいたい。無思慮な過剰共縮制動でこれらを行っていれば,腹筋群と首の筋群を過剰に筋緊張させてしまい,テイクバック等のこれらの動きを有利なものにできない。

人によっては,体軸のひねりを「力のため」として考え,スイングする少し前の段階で体軸のひねりを意図的に先行させようとする。実行者の実際の動きとしては,バットをスイングし始める少し前に胴体をひねる動きが始まる。私達がその映像をスローモーションでみれば,そのように確認できるだろう。しかし,実行者がこの胴体のひねりを先行させて行う意図を持つことを,私は推奨しない。実行者が前述した指示に従って,重鎮基底制動で足底から制動力をバットの芯に伝えていくことを意図して動けば,胴体のひねりは適切な程度に先行して起きるからである。

実行者が意図して胴体のひねりを起こそうとすると,実行者は効率的な力の発揮を実現できなくなりやすい。なぜなら,実行者が安定すべき箇所を動かしてしまい,余計な筋緊張を生じさせやすくなるからである。有効に動作している人がこのように動いた時は,「力が逃げてしまっている」感覚を得ると考えている。効率的な力の発揮は,抑止された支持部位と動きの先導端がつながる感覚を実行者が得る際に実現されやすい。実行者の意図的な胴体のひねりは,このつながりを分断してしまうことになりやすいと考えている。

これは,関西大学でスポーツ動作を研究している小田伸午の指摘と通ずるものとなる。小田は著書『一流選手の動きはなぜ美しいのか』の中で,野球の投球の仕方で次のように解説している[36]。「身体各パーツの最高速度到達時間のずれは,ほんのわずかな間に起きます。意識できるようなゆっくりとした動きではないのです。前足が着地したと同時にリリースという同時感覚でちょうどよいのです。客観的順番は,前足がついてから,その足に体重を乗せ,腕が残って右胸を張り,右肘を前に出して上腕が外旋し,ムチ動作のように腕がしなってリリースする,です。しかしこの原理を実践する動作感覚は,前足が着地したと同時にリリースでうまくいく場合があるのです。」

「足に体重を乗せる」「着地したと同時にリリースする」という小田の説明は,私のいう重鎮基底制動と目的端先導の具体的な指示と類似する。私であれば,「着地した足底が止まっていることを考えて,ボールを持つ手(またはボール)を動かして投げる」ことを実行者に勧める。そして,着地した足底から手で握るボールまで「力を逃がさず」に「力をのせる」感覚を実行者に得てもらうようにする。



体全体を回転させる

ダンスでは体全体の回転の動きがダンサーに求められるだろう。有利意図のダンサーが,回転動作の際に考えるべきことは,体の前側にある支えを軸として頭と胴体を回転¬させることである。その軸は支持部位となる足指底部から始まり,前頭部と胸骨上端部を貫く架空の軸と考えてよい(図7−8)。頭も含めてその軸で回転することを意図する。頭はその重さや位置,構造から慣性の影響を受けやすいため,ダンサーは回転する軸上に頭があることを考え,頭を胴体と共に動かすことを考えるべきである。

図7ー8 体全体を回転させる動作

図7ー8 体全体を回転させる動作

脊柱を回転軸として,体を回転させる人もいるかもしれない。意識的な場合もあれば,無自覚でこのように意図している場合もある。しかし,脊柱の位置は背側に偏っているため,実行者が脊柱を軸として足指底部上に位置づけようとすれば,実行者は脊柱伸展位になりやすく,後方に倒れやすくなるだろう。

実行者が回転動作において意図すべき先導端は,求められる回転の動き次第であるが,その一つとして体の前側の面とすることを勧める。実行者はその面の中に頭と胴体を含み,体の前側の面全体を,体の前側の軸を中心に回転させるように意図するとよい。そして,この体の前側の面を動かす意図を持ちつつ,必要に応じて頭を先行させて回旋させたり,腕を先行させて動かすようにする。実行者は,先行する部位を求められる動きに応じて特定しておくとよい。実行者は手や肘,肩,頭と行いたい動きを導くのに適当な部位を先導端として特定し,そこを動かすようにする。この場合,軸は止まるべきものであるため,軸を動きの先導端とするのはふさわしくない。

指示の仕方:足指立ちで体全体を回転させる

  • 立骨重心制御を実現する。頭を最高位置に位置づけて額を適度に前方に向け,骨盤を立てる。体重心を支持基底面上の適切位置に位置づけるために,足底全体に体重がかかるようにする。これを動作中も継続させる。
  • 足指底部を支持部位と考えて,その上に自身を乗せ続ける意図を持つ。
  • 足指底部が止まっていることを考え,頭と胴体の前側の面全体を,体の前側の支えを軸として回転させることを意図する。回転軸を,支持部位となる足指底部から始まり胸骨上端部と前頭部を貫く架空の軸とする。
  • 腹筋群と首の筋群を過剰に筋緊張させないようにする。

留意点

  • 腹部前面や頭の額から,回転する力を発揮すると思ってもよい。積極的に腹筋群の筋緊張を加えるわけではない。
  • 脊柱を回転軸と考えて回転する人もいる。脊柱の位置は背側に偏っているため,脊柱を軸にしようとするとバランスを崩しやすい。また,頭を考慮しないとやはりバランスを崩しやすい。

脚注

[36] 小田伸午 『一流選手の動きはなぜ美しいのか』 角川学芸出版,2012年。

(第7章終わり。第8章につづく)
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有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声

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