第8章 有利な呼吸,発声の実現方法(その3)

有利な体の使い方 姿勢・動作・呼吸・発声
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3. 有利な安静呼吸の実現方法

デスクワーク,読書,座った状態での細かい手作業など一定の姿勢を継続させていて,大きな動きが伴わないような活動をしている時は,実行者は安静呼吸といってそれほど換気量を必要としない呼吸活動を行っているだろう。こうした静的な座業は,実行者の換気量が少なくとも達成される。こうした作業をしている人には,「浅い呼吸」という表現があるが,息をつめたりするなどで,その換気量をとても少なくしている人がいる。浅い呼吸は,一般的にはあまり問題視されにくい。しかし,私は,負担や体調,気分,心理的な影響を含めて,呼吸が浅いことは一定の影響を与えるものと考えている。

静的な座業に関わらず,私達は何かをしている際に,行為に没頭して呼吸には注意を向けなくなるだろう。それでも呼吸は自律的に行われるものであり,止まってしまうわけではない。一定の割合の人は行為に没頭した結果,即席保全の自動プログラムを作動させて,呼吸を制約する体位維持の仕方を行ってしまうために,自律的に行われる呼吸が制約されて,浅くなってしまうと考えている。有利意図の人はこうした呼吸でも有利なものにするために,呼吸を制約しない体位維持の仕方を実現するのである。実行者は,これを実現することで,呼吸に注意を向けなくとも適切な呼吸をしていやすくなる。

呼吸の際は胸部も腹部も動くのだが,安静時の呼吸としては「腹部前面が動ける呼吸」を有利意図の人に勧める。実行者が呼吸をした時に腹部前面が動くようであれば,腹筋群の呼吸活動に貢献する自由度は多く,腹筋群が呼吸を制約していない状態となっているからである。この際に,胸部も腹部に伴って動いてよい。

指示の仕方:座位作業などの安静時の呼吸

  • 立骨重心制御を実現する。頭を最高位置に位置づけ,骨盤を立てる。体重心を支持基底面上の適切位置に位置づける。これを動作中も継続させる。
  • 足底と殿部の両支持部位に体重を預ける。
  • 動く際は重鎮基底制動で動く。
  • 適度な呼吸をした時に腹部前面(へそより上)が膨らんだり,へこんだり動くか確認する。「鼻や口から息を吐いたり吸ったりする」と思い,腹部前面の動きは自動的に起こるものと考える。
  • 時々,上記の状態に気づき,確認する。頭が胴体から独立していつでも動ける状態かも確認する。

有利意図の人は,「我に返る」ように時々自身の体の状態に気づくようにして,「自身をどのように支えているか,そしてどのように呼吸をしているか」を確認するとよい。そして,気づいた際に十分に息を吐くとよい。実行者が浅い呼吸を続けているような場合は,腹筋群緊張から息を十分に吐きにくくなっており,息を吸うことを無自覚で努力的に行ってしまいやすい。これは,実行者が肋骨を重力に逆らって筋収縮で挙上させる度合いを強くしていることを意味している。このため,実行者は首や背部の筋群の筋緊張を強くすることになる。この呼吸の仕方よりも,実行者がゆっくりと十分に息を吐き,吐くことをやめた結果,息が勝手に入ってくるように吸気していく仕方の方が効率的なものになると考えている。吐くためにも,実行者は肋骨を動かす筋力を用いるものの,それは肋骨を下降させる重力方向の動きで実行者の筋負担は大きくはない。実行者がこの肋骨の下降で筋組織のばねエネルギーを蓄えて,それを解放する形で肋骨を挙上させれば,実行者は吸息の負担を軽減でき,吸息の仕方を効率的なものとできる。

4. 有利な努力呼吸(発声,管楽器演奏等)を実現する方法

努力呼吸は,意図的に多量の空気の交換をしていく呼吸のことである。発声,管楽器演奏などの活動をする人は,努力呼吸を行うことになる。安静呼吸と区別するのは,努力呼吸の場合はその換気量の多さや換気の勢いの強さから,より多くの筋が動員されるからである。努力呼吸の場合は肋骨の動きが大きくなり,呼吸筋群の収縮度合いも強いものとなるため,呼吸筋群の収縮による牽引や関節を通じた作用力を受けて実行者の体は動かされやすくなる。有利意図の人は努力呼吸をする際についても,立骨重心制御で重鎮基底制動を心がけるようにする。その上で呼吸時の固有制動先を制動することで,体を安定させやすくなり,力強い呼吸を最小限の筋緊張で実現できるようになる。

努力呼吸時の固有制動先

努力呼吸では,呼息時に腹筋群の収縮度合いが強くなり,また吸息時には腹筋群が他動的に伸張される度合いが強くなる。この腹筋群の収縮と伸張は,その付着部である肋骨と骨盤を牽引する。即席保全の人は,この牽引を受けて胸郭と骨盤を動かしてしまいやすい。この場合,実行者の体位維持の状態は骨盤スライド後傾や脊柱屈曲,頭部前方突出と頸椎伸展の状態となるが,この状態では実行者は有利な呼吸を実現できなくなる。

有利意図の人は,牽引される頭と骨盤を固有制動先として制動するのである。骨盤の制御とは,骨盤スライド後傾にならないように実行者が殿部を後方に位置づけておくことである。頭の制御とは,実行者が頭を最高位置に位置づけて,頭の額を適度に前方に向けることである。実行者はこの制御によって,腹筋群の牽引に拮抗できるようになり,骨盤スライド後傾や脊柱屈曲,頭部前方突出と頸椎伸展を抑制することができる。

有利意図の人が出すべき骨盤制御の指示は「脛や大腿部前側に体重がかかるように,殿部を後方に位置づける」である。頭部制御のための指示は「頭を最高位置に位置づけて,額を適度に前方に向けておく」である。これらは姿勢形成の基本となる立骨重心制御の指示と同じものとなる。

実行者は頭と骨盤を,腹筋群の強い牽引に拮抗しうる程度に支える必要がある。安静の立位の時には腹筋群の牽引はそれほど起こらないため,少ない筋緊張で頭と骨盤の支持を行える。努力呼吸の時は,実行者には腹筋群の筋緊張がより強く求められることとなり,より強い牽引力が生じることになる。このため,実行者は安静の立位時以上に,頭と骨盤を筋を用いて努力的に支えることになる。

有利意図の人はこの頭と骨盤の制動にあたっても,目的端先導を応用し,脊柱や背筋群,腸腰筋などの頭と骨盤を支えるための筋や関節のことよりも,その先導端である頭や額,殿部表面を導くように意図する。こうすることで,実行者はそれなりに筋緊張を生じさせていくものの,最小限の筋緊張で頭と骨盤の制動を実現できるようになる。

吸息の際に腹筋群を出来る限り弛緩させ,伸長されやすい状態にする

発声や管楽器演奏などの努力呼吸の活動は,吐く息を用いて音を出す活動である。こうした活動時は出された音が評価される対象となるため,実行者は呼息のことを優先的に考えやすい。呼息は吸息の供給があってはじめて行われることであり,吸息も適切に行われるかどうかも呼息と同じくらい重要である。こうした活動をする人は,呼息を優先するほど,呼息のパフォーマンスは劣化すると考えた方がよい。実行者は呼息と吸息の双方を適切にすることで,双方を有利なものにできる。発声や管楽器演奏の活動では,吸息は「息継ぎ」である。実行者はよりよいパフォーマンスを実現するために,この息継ぎも適切な意図を持って行うべきである。

有利意図の人が吸息の時に目指すべきことは,腹筋群の体位維持活動からのできる限りの解放である。これは,腹筋群の呼吸活動に貢献する自由度の確保,腹筋群のできる限りの弛緩といってもよい。腹筋群が十分に弛緩できる状態であれば,横隔膜や肋骨の動きによって,腹筋群が他動的に最大限に伸張されることになり,効率的な吸息と吸気量の最大化が実現されると考えている。

腹筋群を体位維持活動から解放するために有利意図の人が行うべきことは,やはり立骨重心制御と重鎮基底制動である。吸息時も呼息時と同様に,この基本となる意図を持つべきである。具体的な指示としては,「支持部位に体重を預けながら,息を吸う」とし,実行者は自動的に腹筋群や肋骨が動くと考えて息を吸うとよい。実行者が短い時間で強く息を吸えば,胸が上がる形で胸郭が動くだろう。ゆっくり静かに吸えば,胸郭も動くが腹部前面も膨らむように動くだろう。

実行者が短い時間で多く息を吸う際は,口からも息を吸ってよい。この方が抵抗なく多量を空気を吸える。そして,「息をつく」時間的余裕があるときは,本来の吸気口である鼻から吸うとよい。

第8章その4につづく)
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