その1の続きです。その1はこちら。
腹筋の緊張が、首こり・肩こり・腰痛を招く理由
腹筋が収縮するということは、上体を前方に曲げる力が働きます。筋肉は収縮することで牽引する力となりますから。そうすると、その牽引力で体が大きく前にいかないように、背中側の筋肉が支えることになります。
筋肉は主動筋と拮抗筋という役割に分かれていて、ペアで働いています。腹筋と背筋はこのような対の関係です。そのため、腹筋が過剰に収縮すれば、それによって体が大きく前に行かないように、背筋も収縮を進めて過剰に働く状態になるんですね。
そして、この背筋(群)にあたる一部が、首こりや肩こりの筋として知られる僧帽筋となり、腰部の筋肉となります。これらの過剰な緊張状態が継続するために、首こり・肩こり・腰痛を招くことになるのです。
直接的には背筋の過剰緊張が原因ですが、それを誘発する引き金となっているのは腹筋の収縮なのです。実際に悪さをしている手下の者を捕まえただけでは、ダメですよね。その親分を捕まえないと。
この場合は腹筋が親分にあたるので、腹筋の過剰緊張をなんとかしないとダメなんです。
で、腹筋の過剰な緊張という親分は、他にも悪さしてるんですよ、これが。
腹筋の過剰緊張の悪影響は他にもある
私たちの呼吸を制約しているんですね。腹筋は呼吸筋の一つで、深く呼吸と関わっています。このため、腹筋が過剰に緊張する状態となると、呼吸に影響が出てしまうのです。吐く息を制約することになり、私たちはこのようになると、息を詰めやすく、息が浅い呼吸パターンになってしまいます。
この呼吸のパターンが本来の制約のないパターンから変わってしまっている、ということも、筋緊張の程度と同様に、私たちが非常に気づきにくいことです。
そして、筋緊張の過剰性に慣れてしまって、それが当たり前の感覚となっているのと同じように、浅い呼吸や詰める呼吸も慣れてしまえば、それが「いつもの呼吸」としか感じなくなってしまうのです。
しかし、息を詰めたり、浅い呼吸をすると本当は苦しいわけです。声も息を使っているのですが、声が出しにくくなっているんです。ただ、悲しいかな、本人はこのような苦しさや声の出しにくさは、自覚しにくいんですね。
もっといえば、頭痛、眼精疲労、胸郭出口症候群、腱鞘炎、顎関節症なども、腹筋の過剰緊張による悪影響に挙げられます。出るわ出るわ、という感じでしょ。
腹筋の過剰な緊張の抜き方
答えのヒントは、上に書いたものの中にあります。と、もったいぶりたくなるのですが、一つは体の支え方、もう一つが呼吸です。「体の支え方を変えて、呼吸の仕方を変える」のです。
体の支え方と呼吸の具体的な指示
腹筋の過剰な緊張の背景には、体の必要以上にしっかりと支えようとすることがあると書きましたね。なので、この過剰な緊張を抜くためには、体の支え方を本来のあり方に変えてあげるんですね。
それは、体を基底部に乗せて、バランスをとっているということです。
こんな風に考えたことはないかもしれませんが、これが私たちが現実に行なっている処置です。
動作に変化を与える際は、動作の本来の目的を考えて、それを意図するといいんですね。
これは動作に変化を与える際の一つのルールです。
この記事で詳しく解説しています。
体の使い方の基本【その2】 前回の投稿で「体の支え方」に注目して、それを最小限の筋収縮で行うようにすることを目指しましょう、とご提案しましたね。 この点について、もう少し説明していきます...
なので、この現実に行なっている処置を意図するようにします。具体的には、座っているときでいえば「体の重さをお尻と足裏に預ける」と意図していきます。そこに体重を乗せて座っているわけですから。
そして、もう一つの呼吸についてですが、「腹筋と呼吸は深く関わっている」と上に書きました。そうなんです。腹筋の緊張を抜くために、呼吸の仕方を意識的に変えるのです。
具体的にどう変えるかですが、実際には、吐く息に蓋をするような形で息をつめてしまっているんです。ので、その止め蓋を外す感じで息を吐くようにします。
ため息を出す感じで、軽く息を吐いてみてください。そして、ゆっくり吸ってみてください。その吐く息・吸う息に合わせて、お腹のへそ上辺りが膨らんだり凹んだりする感じがあれば、とりあえずOKといっていいでしょう。
ポイントの一つは、お腹を意図的に動かそうとは思わないということ。どちらかというと、口から息を吐いて、そして鼻から吸うことに注意を向けて、結果的に(または勝手に)お腹が動く感じがあればいいだけです。お腹を動かそうとすると、腹筋の緊張は抜きにくくなってしまいます。
この辺もリーディングエッジの応用です。リーディングエッジも本来の目的を意図することと同じですが、この場合は呼吸で動かす「空気・息」をエッジ(先端)と捉えて、それを動かす意図を持つ。そして、筋肉は勝手に働いてくれると考えていくんですね。
2つの指示をセットで行う
この2つの指示をセットで行なっていきます。
こうやって腹筋の過剰な緊張を抜いていきます。
腹筋の緊張が抜けると、背中や首、そして肩の緊張が抜きやすくなります。腹筋以外の緊張を完全に抜くには、もう少しそれぞれの調整が必要ですが、とりあえず誘発してしまっている分は抜けますよ。
確かによりラクになれる姿勢もあり、それに変えた方がよりいいとは思います。ですが、その姿勢の形を変えずとも、これをやるだけでもある程度ラクな感じになれると思います。
気づきを増やす
なにせ、それまでは自分に全く気づかずに過ごしてきたわけですから。急に仕事の真っ最中に、これに気づけるようになるかというと、そうは問屋は卸しません。
自分の筋緊張の過剰性に気づく訓練をする必要があるということです。
私は、一般的な方よりも多く、自分の体の使い方に気づき、評価して、過剰な緊張を抜いていると思います。今でこそこうですが、これを学ぶ前はみなさんと同じで、全く気づいていなかった。
気づくこともせず、何にどう気づけばいいかも知らずです。このため筋緊張は放置されて、首こりや頭痛に悩まされていました。
でも今は、「勝手に気づいてしまう」みたいな感じです。そして、「仕事しながら気づけるし、人と話しながらも気づける」ようになっています。過剰な筋緊張を特定できるようになって、放置しなくなったおかげで、当時に感じていた首こりの感覚を忘れてしまうくらいになりました。
これは私だけではありません。私のクライアントはだいたいこのような感じになります。
このようになれることから、次のように思うようになりました。
「私たちには気づく能力があったのだ。何かの作業をしながらも、自分に気づき続けていられる能力があったのだ」と。そして、「この気づく能力は、これまで未開発だったんだ」と。
この気づく能力を磨いて、頻繁に気づけるようになるための訓練も必要ということです。これにおそらく時間がかかります。といっても、2ヶ月から3ヶ月くらいでしょうか。そのくらいでは変化がけっこう出てきます。
3ヶ月が長いとみるか、短いとみるかは、人によっても違うでしょうが、多くの方のそれまでの不調が続いていた期間からすれば、短いものといえるでしょうね。
数10年続いてきた習慣であったとしても、3ヶ月くらいの期間で変化を出していけるものなんです。これは私のレッスン指導経験からいえることです。
まとめ
こうやって腹筋の過剰な筋緊張を抜いていくようにするんです。
黒幕を確保!
で、あとは親分を失ってちりぢりになっている子分たちの悪さを、一つ一つ片付けていけばいいんです。
- 腹筋の過剰緊張が首こり・肩こり・腰痛を誘発する原因となっている。
- 腹筋緊張は、私たちが「体の支えすぎ」の癖を持っているせい。腹筋の過剰緊張は、吐く息を制約する形で、息を詰めやすく、浅い呼吸にさせてしまう。
- 「体の重さをお尻と足裏に預けて、ため息を出す感じで息を軽く口から吐く。そして、呼吸に合わせてお腹のへそ上辺りが勝手に膨らんだり凹んだりしたらよい」
- 日頃の生活の中で、腹筋緊張に気づいて、緊張を緩めるようにする。
ちなみに、こちらはもっと奥の深い「肚」の見解です。
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